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試合が進むにつれて段々と胸が詰まる感覚を覚える。この試合は通過点。それでも、お互いを知り切磋琢磨してきた相手だからこそ、"終わり"を感じてしまうのが怖くて。烏野のベンチを見れば自分と同じように記録を録りながら、熱心にコートを見る清水が道香の目に映った。

どちらかが勝てば、どちらかが最後だ。





「…今度は試合中に考え事か?」

『……直井さん目ざとい…』

「そんな顔してっからだろ。」





こそっと、耳に届いたのは直井の声。コートでは山本、孤爪、灰羽の3人が日向をブロックして盛り上がっている。手元のスコアシートにペンを走らせながら、道香は直井を横目で見て。彼の視線はコートに固定されており、いつこちらを見たのだと問いたくなるほど試合に熱中しているように見えた。





「わかりやすいからな、おまえは。」

『JKはみんなこんなもんですよ。』

「たまにバカにしてくるよな?」

『気のせいですって。』





烏野がタイムアウトをとったらしく、軽口にかぶさってブザーが響いて。道香が慌ててタオルを準備しようと立ち上がれば、直井の視線が突き刺さり途端に身体が固くなる。視界の隅に戻ってきている彼らを捉えながら、ゆっくりと開かれた直井の口元を見た。





「しっかり見とけ。あいつらも強くなってんだ。ね、監督?」

「そうだなあ。後悔のねえ試合なんてねえ。やり切ったって言えるように応援してやりゃいい。」

『……ハイ』





得意げに笑う直井と、会話を聞いていたらしい猫又。2人の言葉に、なにか腑に落ちたような感覚になり、道香は勢いよく頷く。仕切り直しだと言わんばかりに、きゅっと拳をつくって意気込んだ。





「天使?」

「はぅあッ!!?」

「もう暴力だな、カワイイの暴力。」

「虎もクロも邪魔」

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