※近親相姦





 ずっと純太と一緒にいた。私は純太のモノで、純太は私のモノで、二人でひとつで、ひとつで二人だった。

 ずっとずっと純太と一緒にいると思ってた。終わりなんかこないと思ってた。でもどんなことにも終わりはあった。私は純太のモノだけど、純太は私だけのモノじゃなくなっちゃった。


「大袈裟だな、なまえは」

「純太は、私を手放してないからそう言えるのよ」

「オレはなまえに手放されてんの?こんなに近くで触れ合ってるのに」


 純太が髪ごと私の顔を手のひらで包んだ。強引に視線を合わせられる。意志の強い純太の瞳が好き。私の目とはあまり似ていない。

 顔から手が離れて、抱き寄せられる。純太の髪が頬に当たってくすぐったい。ふわりと香るシャンプーは同じなのに、髪質はまるで反対。小さい頃は、ううん今も、純太のようなゆるいウェーブの髪に憧れてる。

 私の頭を撫でる大きな手も、顔を預けても余る広い肩も、添えた手から感じる厚い胸も、私が乗っても形の変わらない硬い太ももも、全部、私と一緒に成長してきたはずなのに、なにひとつ一緒じゃない。

 純太とひとつになりたかった。純太とひとつから生まれたかった。同じに生まれたのに、私と純太の間には染色体ひとつ以上の違いがあるように思えて、悲しくてたまらなかった。私と純太は、こんなに違う。


「純太が私の手から離れていくの。私には届かない遠くへ行ってしまうの。でも私は純太のモノで、純太から離れられない。離れたくない。でも純太はもう、私だけのモノじゃない…」


 ぽた、と零れる雫を、落ちる前に純太が舐め取る。私の一番きれいな排泄物が、純太の糧になる。少しひとつに近づけたように感じて、嬉しくなった。こうして私のすべてが純太に取り込まれてしまえば、いいのに。


「不安?オレは確かにこれからの時間、青八木と勝つために使う。なまえを放っておくし、遠くへも行く。それでも必ず、なまえの元に帰ってくるよ」


 純太は嘘をつかない。私の真実は純太だから。必ず帰ってくると言ってくれた。なら私は待つしかできない。

 こんなにこんなにこんなに、私は純太が好きなのに、純太は私以上には私を好きじゃない。私には純太しかいないけど、純太には私だけじゃないから。純太を夢中にさせられるのは、私だけじゃない。分かっていたはずだった。


「純太、私ちゃんと待ってるね。いい子にしてたらご褒美ちょうだい、ね」


 私が素直にそう言うと、純太はとても嬉しそうに笑って私のおでこにキスをしてくれた。私も同じように純太のおでこにキスをする。ことさら嬉しそうに笑ってくれた。純太の、その笑顔が大好き。

 純太がいなくなったら死んじゃう、と言おうとして、これ以上枷になりたくはなくてやめた。私、純太がいるから生きていける。そう言うとオレも、と言ってくれた。たった三文字で、私は幸福感に浸れた。




 純太のいない時間、僅かな喪失感のさなか、私は繰り返し同じことを考える。純太とひとつから生まれられたら、どんなによかっただろう、と。

 私のすべては純太と別々に作られた。ひとつから生まれていたなら。ひとつを二人で分け合って、そうして私と純太が作られていたなら。

 そんなどうしようもないことを、繰り返し考える。もしそうなっていたら、私と純太は愛し合えなかったかもしれないんだから、本当に、どうしようもない。頭ではきちんと分かってる。これは、純太が帰ってくるまでのただの暇潰し。


「(ずっと一緒に、お互いだけを求めて生きていけるだなんて、どうして思ったんだろう。どんなことにも終わりがある。私たちのハニームーンは、これから少しずつ欠けていってしまうのかもしれない。恐怖。私には純太しかいないのに!)」


 純太が私を捨てて、誰かとどこかへ行ってしまうことを想像する。純太が幸せならそれでいい。けれど捨てられ残された私は、純太以外を愛することができるだろうか。一生、純太の幻影と残骸を慰めにして生きていくのだろうか。それとも、もう手に入らないと分かったら、そこで生を終えるのだろうか。どうせ純太のいない世界では生きられないのだから。


「なまえ、ただいま」

「おかえりなさい、純太」


 抱きしめてくれるこの腕を、この腕の中を、誰にも渡したくない。いつまでもここにいたい。片時も離さないでほしい。すべて、私のわがまま。

 純太から自転車を取り上げてしまいたい。自転車はいつも私から純太を奪っていくから。本当は私にがちがちに縛り付けて何処へも行けないようにしたい。私だけを見て、私だけのために生きてほしい。純太だけを見て、純太だけのために生きる、私のように。


「純太、私いい子にできたよ」

「ん、偉いな。ご褒美は何がいい?」


 私の欲望をそのままぶつけたら、純太はきっと困っちゃう。自転車じゃなくて私に構ってほしい、なんて。…それに私、自転車に乗ってる純太もとっても好きなの。すごく矛盾してる。


「愛してるって言って。私の名前を呼んで、愛してるって言って、ぎゅっと抱きしめて。髪を撫でて、頬に手を添えて、優しくキスして。一緒のベットで朝まで寝て」


 言いながら、純太の目をまっすぐ見ながら、私ははらはらと涙を零していた。悲しいわけじゃないのに、どうして泣いてるんだろう。純太はくすくすと笑って、私の涙をぺろりと舐めとった。さっきと同じ。


「いつも通り、だな」

「うん…、いつも通りでいて。明日も明後日も、ずっと…純太が嫌だって思うまで、ずっと、いつも通りがいいよ」

「じゃあ、一生いつも通りだ」


 純太の一言で、私はいとも簡単に永遠を信じられる。


「なまえ」

「なあに純太」

「愛してるよ」

「私も」

「ちゃんと言って」

「純太、愛してる」

「いい子だ」


 純太。胸が千切れそうなほど愛しい、私の半身。あなたの愛をこの身に感じながら、今日も眠りにつく。明日もまた、永遠を信じる、愚かで幸福な私に会えますように。





シリウス、願いを叶えて








シリウス:おおいぬ座α星。ギリシャ語で「焼き焦がすもの」「光り輝くもの」を意味する「セイリオス」に由来する。

共依存の手嶋双子がお互いの代わりに青八木に依存の矛先を変える話を想定して書き始めたはずだった。青八木でなかった。
こいつら既に一線超えてるな…と思いながら書きました(最低)。避妊はしっかりしてると思います。
あと夢主がヤンデレにならないように気をつけました。結果メンヘラになりました。

このページでちょっと解説。(どんな意図で書いたか自分で忘れそうなので)

これは余談っていうか豆知識ですが、涙って排泄物の中で一番きれいなんだそうです。90%以上が水だとか。リラックス状態の時に流す涙はしょっぱくないらしいです。

141207



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