log | ナノ
【log】

止まった歯車は2度と動かない

意味




元相方の遺した芸術を抱きしめて、今日も僕に問う。


『なぁ、何で旦那は三代目を遺したのかな、オイラに』


腕の中で収まるガラクタにしか見えない人形はボロボロで僕を見てるはずの蒼い瞳は虚ろ。


その問いはもうこれで軽く10回は超えている。普段はプライドが高く好戦的で、自分の信ずる芸術を少し批判しただけで食って掛かるようなこの人は、スイッチが入るといつもこんな具合に僕に問う。そして厄介な事にそのスイッチはいつ、どこで、どんな具合に入るのか全く検討がつかないのだ。いつも気付くのはスイッチが入った後。虚ろな瞳と毎回同じ問いでいい加減僕も自分の瞳を使いたくなる。


『なぁ、聞いてるか?トビ』


『………えぇ、聞いてますよ、先輩』



このやり取りを約30分続けて彼は段々と正気を取り戻す。やれやれ、これから長い。僕はバレないよう小さくため息を吐いて彼を見た。やはり瞳は虚ろで何を見据えているのだろうかと少しだけ恐くなる。


『旦那はさ、無意味な事は絶対にしないんだ、うん』


そう言って壊れた人形を抱きしめる彼を見てられなくなって視線をずらす。別に構わない。己の目的果たすため働いてくれるなら何度でも問えばいい、どこまでも見据えればいい、と。




(――――…ただ)




【亡くした人の想いを知ることは出来ないから】



問いかけないで
あの人とは違う僕が居るから。

僕じゃ駄目ですか





19 Aug.,2013
口の悪さ





『デイダラの口の悪さってさ、誰に似たんだろうね?』



壁からどういう仕組みで出ているのかは知らないが突きだした堅そうな殻に覆われたゼツはいつもと変わらない声色でそう言った。普段、会議でしか使われない部屋は大層広く、白いゼツが言った少し高めの子供っぽい口調が反響して耳に残る感じがする。


無駄に広いその部屋はガランとしていて、俺の他に数人居ても密集感が満たされることはない。不意に壁にかかる時計を見る。会議を行う筈の時間はとっくに過ぎていた。



『サソリニ決マッテイルダロウ』



今度は黒いゼツが低く言葉を繋いだ。自分の名前が挙げられた事に少しばかり不服を感じながらとりあえずゼツに視線を送る。しかし俺の視線や意見など興味がない、もしくは求めてないのか此方に目をくれる事もなく討論らしきものを続ける。




『えーでもさ、飛段も相当口悪いと思うけど』

『マァナ。ダガデイダラハ飛段ヨリモ、サソリノト一緒ニ居ル時間ノ方ガ長イ。』



『あーそっか。』という白ゼツの言葉を最後に、また会議室は沈黙に包まれた。壁にかかる時計の秒針の音が妙に大きく聞こえた。

26 Jul.,2013
異体


痛い。痛い。
視線が、痛い。



『…………旦那』


いつもと比べ物にならないぐらいの尋常でないほどの重苦しい沈黙の中、蒼眼を揺らしてやっと言葉を吐き出せたのは、大分と時が経ってからだった。

黒みを帯びた赤黄色い眼が、さっきから自分を捉えて離さず、整った唇は沈黙も守ったままだ。


『……旦那…痛い。』



ギリギリと締め付けられる右手首を微かに揺らす。
しかし瞬きもせず、サソリはデイダラを真っ直ぐ見ていた。
心内を何もかも見透かされているような錯覚に陥りかける。



『どういう事か、しっかり説明しろ、デイダラ』



いつもよりゆっくりと低い声が鼓膜を揺らす。だから言いたくなかったのだ。とデイダラは溜め息と歯軋りをしたくなった



『だから、コンビ解消、だってよ、うん』



目が合わせられなくて、締め付けられる手首を見詰める。自分だって、信じられない。


『………』


また、恐ろしいほどの沈黙。




『………ふざけるな』


沈黙を破ったのは旦那で、その表情は今まで見たことも無いような嫌悪を示していた。人形なのにここまで表情が出るということは生身だったならどうだったのだろう、とどうでも良い考えが頭をよぎった。



『リーダーに掛け合ってくる』




低くそう言った旦那は手を離し、くるりと向きを変えてスタスタと歩き出した。




9 Jul.,2013
駆け引き




一昨日は髪を引っ張られた

昨日は足を引っかけられた


そして今日は



『見事な造形だな』


なんて褒めるから
またあんたに一歩近寄りたくなって
あんたに溺れたくなる



ズルいあんたを
オイラはきっと誰より好きだ。

19 Jun.,2013


朝、眼を醒ますと
額に冷たい感触がした


『目が醒めたか』

『…旦那』


幾らか瞬きを繰り返し
紅い髪を見上げる。


体温の無い身体に触れようと
手を伸ばすが空を掴むばかりだ


『旦那…』


愛しい人に触れようとすると
周りに沢山の光が舞い始める
その光の眩しさに目を細めた


『旦那…旦那…――――…何で』

















『せんぱーい!!起きて下さぁい!!あっさでっすよー!!』



目を開ければ
ぐるぐるのオレンジ色した仮面が目に入る


『…トビ、うるせぇ…』


『またまたぁ!!うるさいのはいつもの事ですよ!!て、いうか先輩が起きないからじゃないっすか!!』


ぴょんぴょん飛びはねながらトビはカーテンを開ける。
部屋いっぱいに満ちてくる朝陽の暖かさを感じると思わずにはいられないのだ





(何で死んだんだよ、旦那)




28 May.,2013
届かない



『旦那、嫌だ、行かないで』


泣いて泣いて泣いて
叫んだ。

任務でどれだけ大怪我を負っても
絶対に泣かなかった


だって
どんなに怪我をしても
どんなに辛くても


人を寄せ付けないようなオーラで
感情を表さないその目で
それでも、好きだと言ってくれた温もりがずっとそばにあったから


『旦那、旦那、嫌だ、行かないで』


空を掻く手は切なくて
夜の闇はあの人をつれて行く


あふれでる涙と言葉は消えることを知らない


『旦那が居なきゃ、意味が無いんだ』


オイラの芸術論は、あんたが居て初めて成り立つんだ

届かない言葉はあの人の背中に追い付こうとした
それでも、届かない

振り向かないで、あんたは進む


『旦那…』


涙でぼやける視界の中で
あの人は振り向いて笑った気がした





24 Apr.,2013
後悔





『――――…まだ居たのか』



しん、と静まりかえった夜の空気に低めの声が背中にかかった。聞き覚えのある声に振り返ると、同じ暁の一員であるうちはイタチが立っていた


『…別に、いつアジトに入ろうとオイラの勝手だろうが、うん』



蒼瞳でイタチを睨み付け、デイダラはキツめの口調で返すとまた前を向いて夜空を見上げた


(こんな夜にこいつとなんか話してたまるか)



盛大なため息を吐きながら見上げる夜空はどこまでも広く黒い。無数の白い光が輝き真ん中辺りには淡い光を放つ月が浮いている芸術的な風景をデイダラは黙って見上げた。


直ぐに立ち去るだろう、と思っていたがイタチの気配は無くならない。イタチに対して憎しみと嫌悪しか持たないデイダラは心底舌打ちをしたくなった。




『…思い出しているのか』



ふ、とイタチのこぼした言葉にバッと振り返る


無視すれば良かった、と振り返ってから後悔する。
イタチの言葉に反応してしまった、ということはその問いを肯定してしまう事になるから


振り向いたデイダラはイタチの顔を見ることは出来ず、俯く。何と言えば良いのか分からない上に自分の行動で肯定してしまったのだから。



『…関係、ないだろ。うん』


語尾が震える。
だから嫌だったのだとデイダラは顔をしかめた。
こんな夜は出来るなら誰とも会わずに過ごしたかったのだ


二人の間に暫しの沈黙が流れる。


『…』



『離れろっうん!』




いつの間にか側に居たイタチを振り払うように手をあげて装束を掴む。眉間に皺を寄せはしたが眉は下がりぎみで装束を掴むその手は震えていた。

イタチは何も言わなかった。
それが余計に込み上げる感情に拍車をかける


『…デイダラ』


イタチの声が鼓膜を揺らす。
デイダラはキツく目を閉じた


『……』


装束を掴んだまま、デイダラは口を開いた。
イタチそんなデイダラを色無い瞳で見下ろす。




(――――…あの人柱力はオイラが殺る、うん。)




あの時の、自分の声が甦る



嫌だ、思い出したくない。
デイダラはイタチを鋭く睨むが、頭はもう、記憶のフィルムが回り始めた


(芸術家ってーのは時に刺激が必要なんだよ、うん)


あの場に、デイダラは相方を1人残した。
相方の強さを誰より知っていたから大丈夫だと信じた

なのに




『オイラが…旦那を…』



相方――――…サソリは死んだ。



『旦那を…』



もしもあの時に、二人で戦っていたなら
こちらの分が少々悪かったとしても
旦那は死ななかった

そして、旦那は今でも
オイラの側に居たかも知れない


そんなどうしようもない後悔と相方を思う日々

デイダラは相方のサソリの死を聞かされてから【過去の過ち】という名の鎖でがんじがらめになっていた



『デイダラ…』



イタチはデイダラの名を呼んだ
それはどこまでも優しく、そしてどこか哀しそうでもある響きだった


デイダラは顔を上げる


イタチの目に映ったデイダラの顔は
いつもの勝ち気なあの表情ではなく、今にも泣き出しそうな顔だった


きっと、サソリの死を聞いてから一度も泣いていないはずだ


イタチはふと、そんな事を考えた



『イタチ』


今度はデイダラがイタチを呼んだ
黒い装束を掴んだまま強い後悔の色をした目で言った



『オイラが、旦那を…殺したんだ』



デイダラの思いがけない一言にイタチは目を見開く。





『オイラが人柱力を狩るなんて言わなきゃ。旦那はあの場所で死ぬことはなかったんだ…オイラがあのババアや女と戦って、旦那が人柱力の方を追って貰えば…旦那は…旦那は…』



『デイダラ』


イタチはもう一度、強くデイダラの名を呼んだ


(お前が殺したんじゃない)



そう言いたかったが
何故か言葉が出てこなかった



デイダラは顔を下に向け言葉を続ける



『オイラが旦那を殺したんだ。もしもあの時、人柱力を旦那に任せていたら、あんな冷たい場所で旦那が死ぬことはなかったんだ』



その瞬間、イタチは反射的にデイダラの体を抱き締めていた

まだ、20にも満たない歳のせいか
暁に入った頃よりもだいぶんと大きくなったものの、抱き締めた体は細い


大嫌いな奴に抱き締められる、しかも同情の意味合いで
それはプライドの高いデイダラからすれば屈辱的だろう

イタチは自分がデイダラに嫌われていると分かっていた
この赤い目を忌み嫌っていることも知っていた
しかし、抱き締めずにはいられなかった



直ぐに突き飛ばされるかと思ったが
デイダラは何もしないで下を向いたままだった



漆黒の闇は後悔も哀しみも
全てを覆う。

覆われた真っ暗な闇の中で、デイダラは震えていた
二度と戻らない相方を思って

19 Apr.,2013
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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