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【log】

止まった歯車は2度と動かない

桜華.後
ヒラヒラと舞い落ちてきた薄い紅色の花弁を両の掌で優しく包みこむ。
包み込んだ手の甲の上に、新しく散る花弁が二枚、三枚と乗っては落ち、乗っては落ちる動作を繰り返した。そんな微かな柔い感触を楽しみながら蒼い瞳を伏せると感覚は研ぎ澄まされ、さわさわと花弁の落ち行く音が聞こえる。



『…今年も来たぞ、うん』



大きな木の幹の前に静かに立つ青年は一人そう言い、閉じていた瞼を上げた。
無限に咲き誇り散ってゆく花弁が視界を包み沢山の花弁をその蒼い瞳に写す。
口元は綻んでおり、瞳には優しい光が宿っていた。先程落ちてきた花弁を包む手をどけて全ての花弁を受けとるかのように両の掌を上へ向けると、1枚しか乗っていなかった鮮やかな花弁は静かに着地しその数を徐々に徐々にと増やしていった。やがて掌に収まりきらなくなった花弁は掌の端からやはり静かに舞いながら地面へと落ちてゆく。


そんな様子を暫しの間無言で続け、瞳に薄紅色を写しとる。自分の芸術理論を何よりも信じる自分にとってその光景は感嘆と悦びを呼ぶ素晴らしいものだ。毎年変わることなく季節を感じ咲き誇るこの大樹に通ってもう何年目だろうか、ふと青年――――デイダラは視線を掌から外し上に向ける。花の間あいだに支えるように佇んでいる葉は陽に照らされ青々と輝き、優しい木漏れ日がデイダラを照らした。


木漏れ日に目を細め、掌に溜まる花弁を落とした。ひらひらと溜まったそれは冷たい地面に音もなくその身を下ろす。足元を見れば幾重にも重なった薄紅色の生きた証が無数に散らばっていた。

いつかこの大樹に話した、自分の気持ち。知識の上で理解していても、けして分かることの無かった気持ち。
相手に求められようと求めることの出来なかったデイダラの隣には、もう愛しき彼の姿は無かった。


いつかの、自分の言葉が蘇る。


(「いつか、分かるといいな、うん」)


だが、この白と桃の折り重なる季節になってしまう前に彼は消えてしまい、彼の…相方のサソリの死を告げられてから、ようやく意味を、想いを理解したデイダラはただただ遅かった、と頬を濡らした。
夏が過ぎ、秋が過ぎ、長く寒い冬を越えて、またデイダラはこの大樹の前に姿を見せる。
気持ちを理解出来なかったあの頃の自分とは違うと、もう決して見せる事の出来ない相方の代わりに今の自分を見せに来たのだ。


「…お前の色の感情が、分かったぞ、うん」


毎年変わる事なく、大樹は自然の芸術を散らしてくれる。
それがデイダラにとって何よりも心の傷が塞がっていくように感じた。
そして今日この日も変わらず、まるでデイダラに相槌をうつように薄紅色の花弁を綻ばせた。ハラハラと掌の上に乗る花弁達は優しく静かに一瞬の幻想の為にその身をもって落ちていく。
足元に目を向ければまるで自分の為に用意された色鮮やかな毛布のようであった。

もう既に散ってしまったであろう枝には、また、次のこの時の為の下準備の葉が青々と輝き始めていた。木漏れ日の中で、デイダラは笑う。

あの時の様な苦笑いではなく、今度は心の底から得た感情を。


そして、掌の中で踊る花弁達に向かってデイダラは囁いた。



「ーーーーーー…だ」


デイダラの囁きに大樹はまるで祝福するかの様に目一杯の花弁を散らした。



桜華.fin


(…旦那、おいらもあんたが好きだ)





1 Jan.,2016
デスゲーム
「…これは、ゲームであっても遊びではない。」

黒く、表情も見えない程フードを深くかぶった世界的発明で名を轟かせた【茅場 晶彦】が、そう告げた。

大きく映し出されたその異様なシルエットに、このゲームに参加した者みな恐れおおのき、意味の理解に苦しむ。

そして、次に告げられた言葉に参加者は身を凍らせる事となるのだ。


【このゲームの死は、現実での死を意味する】と。


参加者が理解する前に、淡々と茅場晶彦はゲームシステムを説明し「健闘を祈る」なんてふざけた言葉を残し、ゲームの世界とは思えない程の綺麗な青空から、消えた。

そこからはただただ混乱。参加者はそこから動く事なく、作り物の空へ向かって叫びをあげる。


「ふざけるな!!出せ!!」

「もう、帰れないの?」


様々な声が飛び交い、参加者はそれぞれの想いに涙ぐみ、ただ怒りをぶつける。

最後に貰った手鏡を見れば、現実世界の私達の姿がアバターになってしまった


「………」


ーーー…これから、私達はどうなるのだろうか

なんとも言えぬ不安と死んでしまうかも知れないという恐怖。渦巻く感情の中に、私は進まなければならない、と声が聞こえた気がして広場の出口へと歩き出した。

8 Mar.,2015
先に逝った貴方へ
『泣きわめけ!!!!』


己で禁じていた胸の口に、粘土を投入し大量のチャクラを練り込む。



目の前にはイタチの弟が目に赤を光らせ、少なくとも焦りの色が浮かんでいる。しかし完全に焦りや死ぬかも知れないという恐怖は浮かんでおらず。この期に及んでまだ解決策を捜している目だった。

それに更に腹が立つ。
イタチと戦った時の様に自分は全く眼中に入っていない感覚。目の前には今自爆しようとしているオイラを見ているはずの写輪眼はその先を見据えているようだった。


ふざけるな


その一言しか浮かばなかった。いつもいつもそうだ。イタチも、サスケも、オイラを見ようとしない。まるで最初から相手にならないと決めつけ手を抜いているような感覚。こっちは全身全霊でぶつかってるってのに、こいつやイタチは平気でそれをかわし憎き紅い目でオイラを見下ろすのだ。

ぎりりと歯を食い縛りチャクラを一点に集中させる。今、こいつを倒せるならば、自分の命など安くくれてやるとさえ思った。それほど、倒したい相手だった。道連れに、してやる。

身体中には黒い紋様が浮かび上がり、身体も熱くなる。これで最後、コイツはオイラと一緒に芸術としてチリになるのだ。

自分の生きてきたこの人生とやらを、オイラは恨まない、憎まない。芸術家として、勝てないと解ってしまったのならせめて、自分も芸術の一部となって死ぬことが本望だ。うん。

(…あと6秒)

爆発までの計算を一瞬で終え、奴を見る。流石にヤバイとでも感じたのか、焦りの表情が浮かんでいた。ざまあねえな。


『オイラは…芸術となる!!!』


カウントダウンを終えた瞬間、身体が弾ける感覚がしたと同時に、視界は赤く染まる。


『…抱きしめてくれるか、旦那』


先に死んでしまった相方へと掲げた、小さな小さな願い。最後に呟いた声は、爆音にかき消され生きた証を大きく残した。

14 Jan.,2015
健康



『―――――…っ!!』


グリ、と強い押し込みにビク、と体を震わせ上を向く。
デイダラにまたがるサソリは無表情に行為を続けた。


『…は、うぁ…だん、な…』


デイダラは苦し紛れに後ろに首を回し、うっすら涙目になりながらサソリを呼ぶ。
しかし当の本人は聞こえていないのかわざと無視しているのか、こちらの呼び掛けに答える様子は無い。


グリ、とさらに強く押し込まれ、また身体が大きく跳ねた。


『…まだいけるだろう?デイダラ』


どことなく楽しげな雰囲気を持ったサソリの言葉に、デイダラは盛大に眉間に皺を寄せる。その瞬間にまた奥へと突かれる。


『う、あ、あ…!!』


拳を作り、痛みに耐える。

そんな様子のデイダラを見るサソリはニヤリと妖しく口元を綻ばせた。



(『旦那っいてぇっつーの!うん!』)

(『我慢しやがれ、マッサージしてやってんだからよ』)




12 Mar.,2014



目を開けた。


刹那、視界に広がったのは青い空。
どこまでも青く
どこまでも澄んでいる。


呼吸をひとつし、息を吐く。
胸に手を当てる。
トクトクと確かに自分は生きている




永い永い、夢を見ていた。
夢の中でも青い空。
しかし周りは殺風景の平地

どこだろうかと辺りを見回せばさらりと光る金の髪
見えるのは髪だけ、
肝心の顔は逆光で見えない。



『 』



金の髪の人物が、楽しそうに自分に何かを話している。
だが、聞こえない
目を細めて耳を澄ますが、やはり音は亡かった。


もどかしさを感じつつ
手を伸ばしてみる。
深い緑に塗られた爪に、親指には指輪。
【玉】とかかれたその指輪の意味は夢が醒めれば忘れてしまった。なんだか大事な気もするし、そうでない気もする。


ついさっきまで見ていたそんな夢を辿りつつ
冷たい壁によりかかる
今は何時だろうか。どのくらい、寝ていたのだろうか。


空が、青い



不意に鐘が鳴り、授業の終了を告げた。
なんだか気分がいい。このまま全ての授業をサボってしまおうかと考える。が、重い腰を上げてドアを開け、屋上をあとにした。

午後の陽射しが教室を暖め眠気を誘う。
やはりサボれば良かったか、と少しばかり後悔しつつノートをとる。そんな退屈な授業の救いは、席が一番後ろの窓際だということだけだ。


ふ、と窓をみれば青い空と、下に広がるグランド。
体操服姿の生徒がちらほらと見える。体育か

そのなかに、目を引く金色




『 』




その瞬間、聞こえない声が聞こえた気がした。
何も思い出しはしないが、不思議と笑える。
何故だろうか。


結局、夢の中にいたあの金の髪は誰なのか、全く分からなかった。ただ、分かるのは、自分にとって何よりも大切だったこと。
今グランドに見える金の髪の人物を、自分は知らない。が、なんだか懐かしい気がしてならない。



(…とりあえず)


この授業が終わればあの金の髪を探してみようかと思案する。
どんな顔なのか想像しながら、目を閉じた。







18 Nov.,2013
質問


『デイダラはさ、サソリの事、好きだったの?』


部屋の壁から顔を出した神出鬼没なゼツは
どことなく楽しそうにオイラに問うた。


旦那が死んで、三日目



ぐちゃぐちゃにつまれた机の上の粘土の山を前にして
いつもなら創作意欲を掻き立てられるのに今はぼんやりと見つめることしかできない。

背後から問うた本人はオイラの返事を待つように
その一言を言い放ったまま微動だにしていない気配がした


好きだったの?と聞かれれば、オイラは首を傾げたくなる。
自分と正反対の芸術論を持っていた旦那の事は、嫌いとまではいかないが気に食わなかった。
旦那はいつだってオイラの芸術論を否定し自分の論を語りだすのだから。

じゃあ嫌いか?と聞かれてもそうではない気がする。
何故ならこの組織で、あるいは犯罪者としての立ち位置の中で、戦闘で、生き残る術を叩き込んでくれたのは旦那だからだ。








結局、オイラはゼツの質問には答えられなかった。
長所にしても短所にしても、旦那はプラスマイナスゼロの印象だからだ。
そう言うとゼツは面白くなさそうに壁へ沈んでいった。
一体、どんな答えを期待していたのだろうか。


オイラは溜め息をついて左手の口に粘土を押し込む。
無意識に吐き出されたその形はひどく見覚えがあった。


四日前まで、隣に居た形。
オイラはなんとなく切なくなってすぐに握り潰した。
潰された粘土は、また手の口内へ吸い込まれて行く。
ゼツの質問が、ぐるぐると頭を駆け巡った。



もう一度、同じ質問を問われたとしたら
オイラはどう答えるのだろうか



そう考えて、やめた。
どうせさっきと同じ答えだろうと。


本当の答えなんて
わざわざ口に出さなくてもいい。


全ての答えが手のひらから滲み出ているのを無視をして、ただただ粘土を咀嚼させた。




17 Nov.,2013
片想い



抱き締めて欲しいと言えるわけが無くて


只の相方だと一目置かれ
引かれた線を越える事は出来ない。




何で人じゃない旦那を好きになったのかなんて

いくら考えを頭の隅々まで巡らしたって
答えは出てくる筈もなくて


せめて引かれた線は越えたいが
越えるための方法すら分からない


一番近くて
一番遠い



オイラが死ぬ前に
あの紅い髪に触れてみたい、と願うのは
重罪なのだろうか







12 Sep.,2013
「#エロ」のBL小説を読む
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