蒼い瞳の彼が、私達の住処にやって来たのは、私が小さい頃だった。
だけど、初めて会ったときはよく覚えている。

外は寒い冬の日で。
私は空を泳ぐ船の中で、クイーンを待っていた。
帰ってきたクイーンを出迎えれば、一緒に居たのは黒い髪に蒼い瞳の男の子。
年は、私と同じくらいか、少し上。
私と同じように、クイーンに助けられてここへ来たんだとすぐに分かった。

新たな住人に私は戸惑ったけれど、嬉しくもあった。
クイーンと過ごす時間も、とても楽しかった。でも、私には友達が居なかったから、同じ年くらいの子と仲良くしたかったのだ。

だけど、彼は笑わなかった。
別に、私のことが嫌いってわけじゃないことは分かっていたんだけど、幼い私は不思議で仕方なかった。


『どうしてジョーカーは、笑ってくれないのかな……』

ある日、そうクイーンに訊いたことがある。
すると、クイーンは私の頭を撫でて、それはそれは綺麗に微笑んでこう言った。

『ジョーカー君は、人よりちょっとだけ不器用なんだよ』

それを聞いた私は、どうしてそうしようと思ったのかは分からないけど、とにかく笑顔で居ようと思った。
そうすればきっと、ジョーカーも笑ってくれる、と思ったのかもしれない。



そうして、現在。

「わわわわ!!」

段ボール箱を抱えていた私に、上から落っこちてきたのは空の段ボール箱。ドサドサッという盛大な物音。
受け止めきれずに、尻餅をつく。

「いったー……」
「なまえ! どうしたんですか?」
「あ、ジョーカー」

やって来たジョーカーは、すぐに状況を飲み込んだのか呆れたような顔をした。
苦笑いして見せると、彼は私の近くにしゃがみ込む。

「またあなたは……」
「えぇ! 私段ボール箱を運ぼうとしただけなのにー!」
「じゃあ何でこうなるんですか」
「……何でだろうねぇ」

へへ、と笑えばジョーカーがため息をつく。
だけど、何だか優しいため息だから、私は何でか嬉しくなるのだった。

「……あ、そこ怪我してますよ」
「え? あ、ホントだ」

ジョーカーが指さした私の腕を見れば、少しだけ血が出ていた。
段ボール箱の角かどこかで、擦ったのかもしれない。

「手当しますから、キャビンに行きますよ」
「え、これ片づけないと!」
「こっちのほうが先です」

ジョーカーは立ち上がると、私に手を差し出した。
ジョーカーは、不器用だけどやっぱり優しい。
その手を掴むと、優しく立ち上がらせてくれる。

「ありがとう」

笑顔でそう言う。
行きますよ、という風に私に背を向けたジョーカーに、後ろから思いっきり抱き着いてみる。
さすがに油断していたのか、少しぐらついたジョーカー。

「ジョーカー大好き」
「……はいはい」

呆れたような口調の中に滲んだ優しさに、私はどうしようもなく胸がいっぱいになる。





・・・・
『どうして?』のもとになった短編です、実は。
かなり似てますね…。

140827
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