||| Mar 27, 2015 

※(恐らく)薄桜鬼で沖田さん
※労咳要素あり









「総司総司!聞いて聞いて!」
「何回も言わなくたって聞こえてるよ」

ばたばたと廊下を走る音が聞こえた。みんなが笑っていた。きみと二人で笑顔で縁側に寝ころんでいた。指を絡めた彼女が幸せそうに顔を赤くした。これはどうやら夢らしい。


僕が顔を歪めるたびに、胸を押さえるたびに、きみも顔を歪めて泣きそうな顔で自分の着物を小さな頼りない手で握るんだ。ねえ、いったい今の僕はきみにどんな風に映っているんだろうか。

「あんまり近づいちゃだめだよ」
「…うん」
「……」

そう言っても其処を動こうとはしない。返事だけは素直だけれど、どうせ動く気はないんだろう。
知ってるよ。いつも笑ってるくせに時々隠れて泣いていること。野良猫にこっそり餌をやっていること。最近ご飯を作っていて火傷したのを隠していること。嘘をつくときはいつも着物の袖を引っ張ること。きみは、僕のそばから離れる気なんてないこと。気づいてるんだ。

「総司、総司。起きて」

瞼を持ち上げる。瞳に僕を映したきみは、少し安堵したように息を吐いて、ゆるりと笑った。分かってるんだ。きみを泣かせるのは僕だってこと。強がっているのは僕を心配させたくないからだってこと。嘘をつく回数が増えたこと。きみを離したくないのは僕だってこと。

「……おはよう」
「おはよう。総司、そろそろ桜が咲くよ」

彼女の向こうの開いた襖の隙間から、桜の蕾が見えた。彼女が僕の手を握る。ああ、だから近づくなって言っているのに。あたたかい手を優しく握り返すと、きみは数回瞬きをしてから、目尻を下げて笑みを溢した。あの日の笑顔と重なった。


馬鹿やってるときも、真剣なときも、そうやって少し指先が触れるだけで顔を真っ赤にして照れるところも、口にしないだけで
(ずっと好きだったんだよ。)

Title By『ゼロの感情。』

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