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クラムボンと魔法使い

「…………エランさん、なんかキャラ変わった?」
「分っかる。なんか、一気にチャラくなったよね」
「例の婚約者さんとも全然一緒に居ないし……喧嘩して、イメチェンでもしたのかな?」
「もしや、婚約者さんを気遣って、今まで皆に冷たくしてた説あり??」
「あー…それはそれで良い。でも、ちょっと今のエランさんは……うん」
「「ちょっと、解釈違い」」



エラン様が、スレッタ・マーキュリーにしつこく迫ってるけど袖にされてるらしい。という噂を聞いた。


一応、彼の行動は報告しないといけないから、こっそり後をつけたり、頑張って話しかけたりしてるけど、それでも彼には冷たくあしらわれてる。

ペイル寮の寮長なのに最近は地球寮に入り浸ってるから、副寮長が嫌な顔をしているし、ペイルの生徒たちの反応も芳しくない。

このままでは、卒業後正式にペイル社へ就職する寮生たちに、エラン様への不信感を抱かせてしまうことになりかねない。


談話室の入り口でついつい寮生たちの会話を盗み聞きしながら、頭を抑える。
そして、続いた言葉にギョッとした。


「てか、最近機材搬入おっそいよね…この前、課題に間に合わないかと思ってヒヤヒヤしたんだけど」
「うちもー。なんかぁ、会社に申請するまで時間かかってるっぽくてさ。エランさん忙しいんじゃない?水星女とのデートとかぁ?」
「副寮長、超キレてたね」
「ねー!うちらに言われてもーって感じ。逆ギレ、キモいわぁー」



ヤ バ い。


音を立てないようにサッと引き返し、早歩きで寮の中を進んでいく。


「話を、しないと」


今までは、極力他の生徒たちとの関わりを減らして貰うことで何とか対人関係の齟齬を減らしていたのに、今の影武者エラン様は全くそういった事を気にする様子は無い。

公衆の面前でスレッタ様を口説いては、他の生徒に対してにこやかに接している。

授業態度は問題ないみたいだけど、ペイル寮よりも地球寮に入り浸って居る姿の方が頻繁に目撃されているのは事実だ。


それでペイル寮が蔑ろになっている現状は良くない。


おまけに、そろそろ勘の良い人は気付いてる頃だろう。
前回のエラン様と今のエラン様が、まるっきり別人であることに。


多分………いや、間違いなくシャディク様辺りは気付いてる。


もし公衆の面前であのエラン様が偽物だと晒されるようなことがあれば、ペイルの信用は地に落ちてしまう。
そうならない為にも、私は出来ることをやらなければいけない。


今の彼を、守るためにも。



「エラン様。今、お時間宜しいですか?」


地球寮の面々がスレッタ様と一緒に他のプラントへ出掛けたらしいという情報をマルタンくんから聞いていた為、今しかないと思って寮の部屋を尋ねた。

地球寮の生徒と一緒にいる時に声をかけても、嫌な顔をして無視されてしまう。
だから、彼等が不在の時なら話し合いに応じてくれるだろうと思って門扉を叩いた。


案の定、地球寮の人にプラントへ誘って貰えなかったことで少し拗ねていたらしいエラン様が「……まあ、良いよ」と低い声で応じてくれて扉が開く。


「適当に座って。って言っても、椅子かベッドしか無いけど」
「じゃあ、…お邪魔します」

ベッドに座り、エラン様は椅子の背もたれに両腕を乗せるようにして座って此方と向き合う。


「それで?僕に何の用かな」
「まずは、貴方の不可解な行動の説明を頂きたいです」
「不可解、ねぇ?一応、スレッタ・マーキュリーを篭絡する計画は、上からの命令なんだけどなぁ?」
「……エラン様?それとも、CEOから」
「ババアたちに決まってるじゃないか。でなきゃ、誰がこんな馬鹿げた命令に従うかって」


大きく溜め息を漏らしながら片肘を付く姿に、内心ちょっとだけホッと胸を撫で下ろした。


「そもそも君が協力してくれなかったのも、その不可解な行動に走った原因の一つだってことは分かってる?」
「それは、本当に申し訳ありませんでした。
以後は、気を付けます」
「以後、ねぇ…。毎度毎度そんなに僕達(モルモット)へ感情移入してたら体が持たないよ?もっと楽に構えてた方が良いんじゃないかな?」
「………流石に、そんな風には見れません。少なくとも、これからは」
「へぇー…?」


目を細めたエラン様がほくそ笑むと、ガタッと椅子から立ち上がって肩を掴まれ、ベッドに倒される。

バラッと髪がシーツに散らばり、スルッと制服の上着の裾から指が潜ってインナーに触る。
エラン様越しに天井が見え、室内灯の明かりが遠く見えた。


「人間様扱いしてくれるっていうなら、アッチのお世話もしてくれるってこと?一応表向きは、婚約者だもんね……反応的に初めてじゃないっぽいけど、他の強化人士とはヤった?」


挑発するような声を投げ掛けてくる割には、全く此方に対して食指が動いていないようでピクリとも興奮してる様子は無い。

それに、黄緑の瞳の奥は此方の反応を窺うように冷え冷えとしていた。
あの日のように、侮蔑も混ざっている。

精神的に揺さぶって此方の反応を見たいのだろう。
そういう性格の悪さは、少しだけ本物のエラン様に近いかも知れない。



「………はあ……」


小さく溜め息をつき、顔を逸らして照明の方へ視線を向ける。


「初めてでも無いですし、他の強化人士の方ともしてませんが…………したいなら、どうぞ?」
「………つまんないな。ま、此方もその気は全くないけどさ」


試して悪いね。と平謝りしながらパッと両手を離して身を引くと、さっきのように椅子に座って背もたれに組んだ腕と顎を乗せる。



「君はさ、石ころを宝石に見せる台座であり、僕たち(ネズミ)を王子様(エラン)に見せる為の"魔法使い"だろう?
処分されない様にするのなら、君も感情に振り回されずに淡々と役目を果たすべきじゃないかな」
「……」
「ペイル社に求められてるのは、余計なことを考えずに機械的に役目を果たす人材だろ」
「その通りです。でも、それでも私達には感情があります。それは、強化人士も変わらないでしょう」


体を起こす私を流し見たエラン様の瞳は、今までのエラン様たちよりもずっと柔らかいのに、何処か人を品定めするような粘っこい視線をしていた。



「それで?こんな小言を垂れる為だけに来たわけじゃないんだろ。本題は何?」


ギュッと服を握り締め、目の前のエラン様と見つめ合う。


「最近、地球寮や実習などでペイル寮の内政まで追い付いていませんよね?
これは、私個人からの提案なのですが……ペイル寮内の自治を、私にお手伝いさせて頂けませんか?」
「まあ確かにそうだけど……なんで?」
「貴方はCEOからの任務に集中出来る。あくまで、"忙しいエラン・ケレス"は、やむ無く代理を立てているだけでペイル寮の内政を無視している訳ではない。というパフォーマンスのためでもあります」
「フゥン…?」


何かを考えるようにニヤニヤとした笑みを溢したエラン様が「まあ、書類なんて右から左にしちゃえば良いと思うけどね〜」という言葉に即座にブンブンと首を横に振る。



「まあそれなら………スレッタ・マーキュリーの件もあるし、ペイル寮の雑多な仕事は君に一任するよ。正直、僕はもう前任者と同じように振る舞う気は無いからね。
昔の僕と関わりがあるコミュニティとの接点は少ない方がいい。その点では、地球寮は最適だ。……ボロが出過ぎて困るのは君らだろ?」
「分かりました。他の生徒にも上手く伝えておきます」
「ありがとう。僕も上手くやるさ。折角、この顔になったんだからね」


クスッと頬に指を当てたエラン様は、「これから、"色々"宜しくね?婚約者さん」と愉しそうに嗤う。


翌日、本当にペイル寮の寮長代理に任命され、「じゃ、よろしく!」と憎めない笑顔で言い放つと颯爽と授業へ行ってしまった。





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