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クラムボンは浮かんだ 3

「グエル・ジェタークが決闘の宣誓を務める。
決闘代理は、エボニー・ボアスだな?」
「ああ」
「……誰でも構わない」


〈双方、魂の代償をリーブラに。
決闘者は、エボニー・ボアスとエラン・ケレス。
場所は戦術試験区域3番。決闘は一対一の個人戦を採用〉


「異論はないな?」
「勿論」
「うん」
「では、エボニー・ボアス。お前は、この決闘に何を賭ける?」
「そうだなぁ……オレはただの決闘代理だし、特に。………いや、オレが勝ったら寮長辞めて貰おうか」


ラウンジ中の空気がざわりと変わる。
同じペイル寮生が賭けるならともかく、彼は他寮生。

他寮生が友人たちの代理戦の報償として、寮長のクビを提示するというのは普通は有り得ない。

立会人を務めているグエル・ジェタークでさえもやや不快そうに眉を寄せる中、全く表情を変えずに聞き流したエランは、真っ直ぐ相手を見据える。


「良いよ」
「エラン……お前は何を賭ける?」
「彼女への謝罪を」


それを聞き、あまりに賭けたものの重さの違いに委員会のメンバー達が顔を見合わせた。
シャディクが含みのある笑みを零し、セセリアが呆れたような顔でため息を漏らす。


「お前……良いのか?」
「早く承認してくれないかな?」
「…解った」


〈ālea jacta est。決闘を承認する〉


グエルが宣誓をしてパンッと両手を叩いた。











「あのエランが、久々に決闘するらしいぞ」
「どっちに賭ける?」
「そりゃ、エランだろ」
「でもアイツ、前の決闘でかなりギリギリっぽかったよな。終わったらしばらく学園休んでたみたいだし」
「どちらにせよ、そこそこ賭け甲斐はあるよな」

生徒たちがケラケラ笑いながらそう言っている声を聞き、タブレットを抱きながら姿勢を低くてしてその場をひっそりと退散する。

学内も寮内も、エラン様が久々に決闘をすると云う話で持ちきりだった。
御三家で決闘を滅多にしないペイル筆頭が動くとなれば、確かにそうだろう。


相手が寮長のクビを賭けたのに対し、エラン様が賭けたのは私への謝罪。
何を賭けるかは決闘者に委ねられているとは云えども、流石に<エラン・ケレス>にとって分が悪い賭けには違い無い。


「私、エラン様に時間外労働させてるのでは…?」


いくらベルメリアさんから決闘を受けるようにと云われていたとしても、これでは本末転倒だろう。
私の役割は、影武者エラン様が周囲にバレずに学園生活を円滑に進めていくことなのに。


…とりあえず、私はいつも通りエラン様が勝てるようにサポートに徹するしかない。


ペイル寮のエラン様の部屋のベルを鳴らすと、すぐに『どうぞ』と淡々とした声と共にスライドドアが開く。
余計なモノが一切置かれていない殺風景な室内の中で、机に座って食い入るように映像を見ている背中へゆっくりと歩み寄る。


「エラン様。エボニー・ボアスの扱ってるアズラワンの機体データです」
「ありがとう」
「その映像は…?」
「これは、決闘委員で保管してる決闘時の録画データ。決闘委員なら、誰でも委員会のデータバンクにアクセスして閲覧が可能だからね」


時折ビデオを巻き戻して動きを見ては、エボニー・ボアスの機体操作の癖、思考パターン、基本的な戦略等を分析しているのだろう。
真面目な人だな。と思いつつ、少しでも彼が楽に勝てるようにしてあげたい一心でギュッと指を握り込んだ。


「あの!御用命とあれば、彼のメカニックを買収して機体のシステムにバグを仕込んだり、メインカメラに遅効性の遮光塗料を仕掛けておくことも出来ます、が…」

いつの間にか映像を止めていた彼にじっと見上げられており、表情は無い筈なのに視線には何処か侮蔑が混じっている様な気がして生唾を飲み込む。


「必要ない」
「ですが、エボニー・ボアスもオッズランキング上位でそこそこの実力を持っています」
「"この学園では"、ね」


ピッと再生ボタンをクリックすると、映像の中の機体が動き出す。
彼の黄緑の目にも、アズラワンが写り込み、瞳の中で踊っている。


「この箱庭の中なら、彼は強い方なのかも知れない。
でも、ガンドフォーマットを使わなくても手強いパイロットなんて、外に出ればいくらでも居る」

飽きたように目を伏せると、映像を閉じて机から立ち上がり、私からタブレットを受け取ってアズラワンの機体データを流し見始める。


「心配しなくても、僕は負けないよ。
君は僕の代わりに決闘の立ち会いをしてくれれば………一人で行ける?」
「行けますがッッ!!?」
「…そう」


「じゃあコレは貰っても?」とタブレットを持ちながら訊かれ、ブンブンッと顔を横に振って腕に縋り付くと静かに返してくれた。



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