アサギの琴
「あ、見てギン。傘が空飛んでるよ」
『…放っておけ。構うだけ時間の無駄になる』
「はーい」
買い物の帰り道。
不思議な空飛ぶ傘を見つけた。ビニール傘とかそんなんじゃなくてもっと歴史のありそうな…、そう番傘みたいなのが飛んでいた
そう、ふわりふわりと飛んでいたのだ。
「ギンー、お兄ちゃん巻き込まれそうな気がするよ」
『…お前は巻き込まれなくていいからな』
「んー、頑張る」
でもお兄ちゃんの手助けが出来るのなら全力でするけどね、そう言って笑うと、白銀は呆れたようにため息を吐いた
***
―カツリ、カツリ
ごく小さな足音が廊下に響く。そしてそれは間違いなくお兄ちゃんの部屋に向かっていっていた
「…ギン」
『昼間のあれだろうな。夏目の体を乗っ取りに来たんだろう』
白銀はそれだけ言うと興味無さそうに丸まった。…白銀は相変わらずだ
布団の中から這い出て体を起こす。そうして廊下に出てみれば、思った通り。昼間の傘の妖がお兄ちゃんの部屋の前にいた
「ねぇ、そこのお兄さん。こんな時間にどうしたんですか」
にこりと微笑み声をかければ、妖はびくっと体を震わせたあとゆっくりと振り返った
『お前も私が見えるのか人の子よ』
お兄ちゃんの部屋から寝息が聞こえてくるのを確認してから私は静かに頷いた
『そうか…ならばお前でもいい、その体頂くぞ!』
言うが早いが妖は私に向かって飛びかかってくる。だけれどその手は私に届くことは無かった
『…こいつに軽々しく触れようとするな』
不機嫌度が最高にまでなってしまった白銀がその立派な尻尾で妖を飛ばしたから。
『…くっ、』
「傘のお兄さん、良かったら話を聞かせてくださいな」
『あ、おい馬鹿』
白銀を押さえて笑いかける。すると傘はぽつり、ぽつりと話し出した
『アサギのために器が必要なんだ…』
傘さんからの話をまとめると、"アサギ"と言う妖は病気にかかっていて琴を弾けなくなってしまった。
だから人の体を借りて再びアサギに琴を弾かせてやりたいとのことだった
しかも器に入っているときは病気の進行も遅くなるらしい
「…よし、わかりました。協力しましょう」
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