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「―あの中に知っている妖がいるかもしれないな」
そう呟いたときだった、タイミングがいいのか悪いのか妖が一人おれ達のいる茂みを覗き込んできた
『おいお前らこんな茂みで何をしている』
その後ろから聞こえたのは『行くぞ』と言う言葉。―まずい、本当に人を襲いに行くつもりなんだ…!
「その必要はないんだ、主様はここに帰ってきている」
『何ぃ!?』
「―誰か「主様」の名を知らないか、名前さえわかれば…!」
元の姿にもどる、そう言おうとした言葉はおれの首に伸びてきた妖の手と、声によりかき消されてしまう
『お主、人の子だな!?』
それを合図とするように次々と襲いかかってくる妖たち。
(――…逃げるな…!!いるハズだ主様の名を知る妖が―…)
じっと耐えるおれに向けて妖たちは襲いかかりながら口々に叫ぶ。その中で必死に主様の名前を探す
『――…様がいれば―……』
「!」
「夏目を放せ!!」
『ぎゃあっ』
ぱらぱらと煙が舞う中おれは友人帳を取り出す
「"リオウ"君へ返そう。受けてくれ」
ふぅ、と息を吐き出せばしゅるしゅると主の元に返っていく名前。名前が返った瞬間招き猫は眩い光と共に弾け…。
――リオウが姿を現した
『ただいま、みんな。』
『――ありがとう、人の子。』
―静かに流れ込んでくるリオウの記憶。
リオウはおれが封印を切ったあと、彼の記憶の中の大切な友人に会いに行ったそうだ。だけれど友人はもう亡くなっていたらしかった。そして森へ帰ったところ妖達が自分のために人の家を襲う算段をしていたのを聞き、自分に止める力が無かったため、おれに何とかしてもらおうと友人帳を拝借したと言った
「…あなたを封印したのも"人"でしょう。それなのに妖達を止めようとしてくれたんですね」
『ふふ私は人が好きだからね。』
リオウは少しだけ悲しげに微笑んだ
『だからもう、もう人里にはおりてこない』
徐々に消えていくリオウの体
『私の居る限りはこの森の妖に人は襲わせまい。風呂、気持ちよかったと彼女に伝えておいてくれ夏目。そして―――』
ザァァァと吹き抜けていく風の中にリオウとリオウの友人が楽しそうにしている記憶を見た気がした
『さらば、人の子。――さらば。』
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