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菜和の髪が青かった。

それはほんの一瞬のことだった。見間違いかもしれない、とは思えなかった

笑顔も声も何一つとして変わらなかったのに、揺れる髪の色だけが確かにいつもと違っていたんだ。その違和感が強く、強く残った

―菜和になにがあったんだ?

それだけが頭の中を占めていく。授業にも集中などできずにただそれだけしか考えられない

不意に昨日あの傘の妖が言っていたことを思い出す。

『アサギのためにしばらくその器を乗っとらせてくれ』

…まさか

ひとつの考えが浮かんだ

そのときカラン、と音を立てて昨日の妖が姿を現した。


「…お前、妹に何かしたな」

『あぁ、お前の妹の中に「アサギ」を入れさせてもらったぞ。うまいこと同化できてるみたいだな。』

「なんで、菜和に…!」

『…あの娘が望んだからだ。まぁ、しばらく協力願おう』


妖はそれだけを言うと、そこから姿を消した


***


屋上で一人、考え込む

今朝の青い髪は憑依の現れだったのか…。どうすれば菜和からアサギを出せるのか…


「アサギの希望を叶えるしかないな。気持ちが消化されれば体からはがれていくだろう」

「!ニャンコ先生」


低級なら頭突き一発ですむのに…、どこかイライラとしながら現れたニャンコ先生は言った


「まったくまたお前はやっかいなことに首つっこみおって」

「おれのせいかよ」

『もめてたってしょうがないだろ。さっさと済ませば早く終わるぞ人の子よ』

「お前が言うな」

「あのガキ食っちまっていいか?」

「ダメ!!…って、菜和!」

「あ、お兄ちゃん」


いきなり現れた妖の脇には菜和が抱えられていて、声をかければ菜和は苦笑いを浮かべた


「大丈夫か、菜和?」

「うん?大丈夫だよ。あの人に抱えられてきたから若干頭がくらくらするくらいだから」


妖から菜和を引き剥がし隣に立たせて軽く髪の毛を触ってみたり、瞳を覗き込んだりしてみる、いつもの菜和のままだった


「…よかった」

「?」


ほっと、息を吐けたのも束の間だった。

…さっき菜和、あの妖に抱えられてきたよな?しかも菜和もあの人に抱えられてきたからって言ってたよな…、つまり見えてる、のか…?


「菜和あのさ…あれ見えてるのか…?」


妖を指差して問えば菜和は当たり前だと言うように頷いた


「包帯巻いて番傘、着物って個性的な人だよねー」


…見えていた。
若干放心状態になったおれを戻してくれたのは意外にもニャンコ先生の一言だった


「菜和はあいつを"人"だと思っているようだな」


アサギが出ていけばもう見えなくなるだろう。

その言葉に安心した。
菜和におれみたいな思いはさせたくないから―

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