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塔子さんに頼まれて買い物に出掛けた先で奇妙な人を見た
無駄にきらきらとしたオーラを撒き散らすその人からは"胡散臭さ"と"面倒臭さ"が溢れている
あまりの奇妙さに思わずじっと見ていると、視線に気付いたその人は何を勘違いしたのか、笑顔で手を振ってきた
周りからは何故か、きゃーっという声が上がる
訳がわからない。視線を反らそうとしたとき、すっと視界の端に黒い影が見えた。それはヤモリのような形の痣
別にそんな痣があるからってどうってことはない。だけれど、それが動いているのだ
さっきまでは無かった筈なのに、今は確かに頬にある。それはまた動いて首へと移動する
「君には"これ"が見えるのか?」
目の前にやって来たその人は、私を見つめてそう言った
「…見えますよ。それはもうはっきりと」
「へぇ…、すごいじゃないか」
「すごいんですか?首が見えるなんて当たり前じゃないですか」
「はっ?」
目の前の人は思った通りに間抜けな顔を晒す。
この人が言った"これ"は痣のこと。そんなこと分かってる
きっと痣は妖の類いだ。見えるなんて知らない人に言わない方が身のためだ
関わらない方が、いい
「それじゃあ、失礼しますね」
踵を返してその場を離れる。
「おれは名取周一。」
背後からの声に振り返れば、"名取"と名乗ったさっきの人がひらひらと手を振っていた
「また会おう。名も知れぬお嬢さん」
私はそれを見なかったことにしてその場から離れた。
塔子さんに頼まれた買い物リスト
どうやら今日は肉じゃがらしい。
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