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『燕はダムに帰ったみたいだな』
「…そうだね」
『…嬉しく、は無いみたいだな』
「んー、そうだね」
髪の毛が風でふわりとなびく。少し、強い風。髪の毛を手で押さえ付けた
燕の妖は、この前大雨で水が戻ったダムへと帰っていった
お兄ちゃんに自分を気にしないくらいにまで尽くされた燕が少しだけ羨ましかった
『菜和、』
「なに、ギン?」
『お前は自分が思ってる以上に、夏目に大切に思われているぞ』
「…ありがとう」
柔らかな白銀の尻尾がまるで慰めるかのように、ふわふわと私を撫でる
言葉にはしないけれど、こうして白銀が私に向けてくれる優しさがなんだかくすぐったかった
「菜和ー、おい、菜和どこだー?」
『…夏目がお前を探しているみたいだな。』
「…そうだね」
下から響いてきたお兄ちゃんの声に白銀は目を細めた。
『…行かなくていいのか』
急かすように白銀の尻尾が背中をぱたぱたと叩く
…そんなこと言われたって
「私、ギンの力が無いとここから降りられないんだけど」
『…そうだったな』
私と白銀が今いるのは屋根の上。一般人である私がここから降りるなんてそう簡単にできることじゃないんだよ。残念ながら
今、白銀に降ろしてもらうとしても、お兄ちゃんに白銀を見られると色々と困るからできないし…
『じゃあ、私がお前をここから突き落とすから、夏目に受け止めてもらえばいい』
「なに、馬鹿なこと言ってるの」
お兄ちゃんは"もやし"とか"マッチ棒"と言われるくらい細っこいんだ、華奢なんだ
落ちてきた私を受け止めたりなんかしたら、怪我をすること間違いなし!
「お兄ちゃんに怪我させるなんて、そんな…!」
『大丈夫だ。夏目も男だからな』
そう言うと、白銀はあろうことがその尻尾を使い私を屋根から突き落とした
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