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名前と遅い昼食をとりながら、これでワインがあれば最高なのに、と高杉は思った。まあ未成年且つアルコール大好き人間ではない名前の家にワインボトルなんてあるわけがなく、炭酸水をちびちびと飲みながらスパゲッティを啜った。ちゃんと冷蔵庫に食品があったのは意外だったがどうせ土壇場で買い込んだのだろう。

「高杉さん。私そろそろアルバイト始めようと思うんです」
「いきなりだな」
「みんなしてるし……どうせ暇だし……」
「やるとしたらどんなバイトに応募するんだ?」
「うーん。なるべく高時給がいいなあ。家庭教師とか塾講師とかかな?」
「名字先生ってか」
「一度呼ばれてみたいです!!」
「いいんじゃないか?」

水商売じゃなければなんでもいい。だができれば塾講師より、家庭教師の方にしてほしい。浮気されるとは思わないが男の知り合いを無駄に増やしたくない。呑気にパスタを啜る名前を見ながら、こいつは他の男に告白されたらちゃんと断れるのだろうかと心配した。ほいほいと家にあげてしまうようなやつだから。

「バイトもいいが勉強もしっかりしろよ」
「はーい……高杉さんお父さんみたい」

お父さん。その言葉に高杉の額に青筋が立った。確かに年は離れているがお父さんとは。せめてお兄さんにしてほしい。何となくだが、名前は恋愛慣れしていないのだろうと察した。食べ終わった皿を台所に持っていく高杉。洗い物はします!と名前が声を上げた。

「座ってくつろいでいてください」
「おう」

名前も自分のお皿を台所に運んで行った。数秒後に水の流れる音がする。特にすることもない高杉は本棚の上に置いてあったレシートをつまみ上げた。日付は今日の昼。やっぱり土壇場で買い込んだのか。呆れと同時に名前を可愛らしく思った。彼女の目の前でこのレシートをちらつかせてやりたい。どんな反応をするのかは目に見えている。元の場所にレシートを戻した時、名前のスマートフォンが光った。彼女がどんな会話を誰としているのかは気になる。気になるけれど、勝手に携帯は見てはいけない。点滅するライトを視界の隅に収めながら名前の皿洗いが終わるのを待っていた。

「スマホ、光ってたぞ」
「え?ありがとうございます」

高杉のところに戻ってきた名前は画面をタップし、LINEの通知を確認した。神威から。『暇。お腹空いた』とだけ。『お昼食べてないの?』と返信。スマートフォンをしまった。

「友達でした」
「そうかィ」
「そういえば銀さんは元気ですか?」
「ああ。昨日もうぜーぐらいはしゃいでた」
「あの銀髪地毛だったんですね」
「ガキの頃からあの色で先生に目つけられてた」
「大変そう……」
「何度言っても染めようとしなかったな」

中高時代を思い出して高杉は笑う。素行がいいとはいえなかったが卒業はちゃんとできた。そのまま大学まで一緒だったのだから腐れ縁も笑えない。

「大学で知り合った坂本ってやつが在学中にバーをはじめてな。そこで俺と銀時、あと桂ってやつが働き始めていつの間にかホストクラブになってたんだよ」
「いつのまにか、って」
「歌舞伎町に店借りる時にな」
「在学中にお店始めるなんてすごいですね」
「坂本は実家が裕福だったしな。だが、頭は空だ」
「え」
「今度会わせてやるよ」

名前は坂本という人物がどんな人なのか勝手に想像を初めた。脳内に浮かぶイメージ像はグレーのスーツと黒いメガネが似合いそうなビジネスマン。想像するには情報が少なすぎた。首をかしげる名前。

「あ、夕ご飯はどうしますか?」
「どっか食べに行くか?」
「どっちでもいいですよ。お任せします」
「寿司でも食べに行くか?」
「え?今日なんかの日でしたっけ?!」
「は?」
「何もない日にお寿司なんて……」
「……」

信じられないと言った顔の名前に高杉は笑った。確かに寿司はご馳走にはいるかもしれない。だがここまで過剰反応しなくてもいいのではないか。

「寿司に決定だな」
「……まじっすか」
「遠慮するな」

ホストクラブに来て贈り物を渡してくる女達の気持ちが手に取るようにわかった。愛情は目に見えないから。せめて物を。自分で相手に何を渡すか考え、行動し、捧げる。受け取った時に気持ちも共に伝わるように。まだ名前が何で喜ぶのかはわからない。わからないけど、少しずつ分かっていけるよう努力したい。

一緒に日向ぼっこをしましょうと言い出した名前に付き合い、窓の近くに座布団を並べて置く。さりげなく握った手と触れ合う肩が愛おしかった。

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