15

心ここにあらずといった表情の高杉を気持ち悪そうに銀時が覗きこんだ。陰険な目つきで銀時を睨んだ高杉は右手に持っていた煙草を灰皿に押し付け、最後の煙を銀時の赤い目に向かって吹きかけた。痺れるような痛みに襲われた銀時は少し潤んだ瞳で高杉を睨む。仮眠明けの高杉の機嫌は最悪だった。

「俺は別に取ったわけじゃないからね」
「何のことだよ」
「……あの田舎娘のことだよ」
「名前がどうしたんだァ?もともとお前の客だろ?」
「……お前なぁ」
「……」

この話は終わりだ、とでもいうように高杉はまだ長い煙草を灰皿に押し付けて立ち上がった。皺のよったスーツを忌々しげに伸ばし、上着のポケットに入れっぱなしだったスマートフォンを取り出し、メールと電話の確認をした。銀時もそれにつられて自分のスマートフォンを見た。フリックでメールを返信し、再びVIPのソファーに寝転がった。高杉の目が一通のメールに止まった。

『電話でられなくてごめんなさい』

申し訳ないと思っているならばかけなおせばいいのに。小さく舌打ちした高杉を銀時は見た。だが彼の口元は小さな笑みを浮かべており、目が三日月型に変わっていた。普段は何を考えているのか分からない彼の珍しく素直な表情変化に銀時は目を見張った。足を振り下ろすように勢いをつけ、ソファーから起き上がる。

「昼飯、どうする?」
「ん?ああ……中華な気分だな」
「駅ビルの中に新しく中華できただろ、そこ行くか?」
「おう」

銀時と高杉は連れだって駅前に向かった。時刻は午後十四時過ぎ。ぎりぎりランチタイムに引っかかる時間帯のお店はどこも空いていた。適当に定食を頼みながら、名前はちちゃんとご飯を食べているのかと心配した。空っぽの冷蔵庫と困ったような顔の名前を思い浮かべて、高杉は苦笑する。あいつはだらしないから。さすがに寒くなってきた今は窓を開けっ放しで出かけることはないだろう。いや、もしかしたら換気、と称してやっているかもしれない。

「こないだお前が名前ちゃんに喧嘩吹っかけたじゃん?」
「……喧嘩吹っかけた覚えはねえ」
「じゃあ名前ちゃん傷つけたじゃん」
「……」
「あれさ、お前が悪いから」
「わかってるよ」
「そうじゃなくて、名前ちゃんが指名したのお前だから」
「は?」
「だから、お前が居なかったから、俺が猿飛と一緒に相手してたの」
「……」
「ちゃーんと謝っとけよ」

銀時が頼んだチャーハンが来たところでこの会話は終了となった。チャーハンに半チャーハンがついている。妙な店だと思った。ラーメンを啜った高杉は先ほどの名前のメールに返信した。


■ ■ ■


一般教養の講義中。居眠りをしていた名前のスマートフォンが震えた。画面が点灯し、メールの受信を告げる。彼女の隣で真面目に講義を受けていた猿飛は何気なく画面を見、そして名前を揺り起した。半目で顔を上げた。

「……なに」
「メール」
「どうせメルマガでしょ」
「……高杉さんから」

高杉の単語に反応した名前は素早かった。目の前のスマートフォンを取り上げ、ロックを外す。受信欄に高杉の文字を見つけ、安堵したような、悩むような複雑な表情を見せた。メールボックスは開いたものの、メール本体は見ようとしない。うじうじとした様子に我慢ならなかったのか猿飛の細い指がRe;の文字をタッチした。

「あっ…」
「どれどれ?」

『すまなかった』の一文。これだけ?と猿飛は心中でつぶやき、名前は何に対して謝っているのかと首をかしげた。何のことですか?と返信をするか迷った。これはこれで怒られそうだ。むーと唸りながら、唸りながら顔を伏せ寝る体制に入った。

「ちょっとあんた返信しないで寝る気なの?」
「……うるさい」
「馬鹿ねえ」

どっからどう見ても両想いじゃない。不器用に恋路を紡ごうとする彼女たちを見てて猿飛は胸がむかむかした。けれどもこれは八つ当たりだ。銀時とうまくいかないことと彼女は関係ない。少しだけ煮え立った腹は名前の寝顔を見て少しだけ収まった。高杉と名前がうまくいったなら、私と銀さんも。そこまで想像をして、軽く溜息をついた。

再び名前のスマートフォンが振動する。今度は沖田からのラインだ。個人的に沖田と名前が付き合ってほしいと思う。ホストの高杉よりも一般学生の沖田。幸せそうに眠る名前の頬を突っついた猿飛は再びノートを取り始めた。この講義が終わったら彼女を連れて食堂に行こう。ちゃんと食べているのだろうかしたこの子。少しやせたように見えるのは気のせいではないはずだ。一人暮らしでめんどうくさがり屋。だらしないし、頼りがいもあまりない。

「私が面倒見てあげなきゃね」

沖田からのラインの内容が画面上部に表示されていた。『土方さんが奢ってくれるらしーですぜ。終わったら食堂きなせェ』これに対して『はーい』と猿飛は勝手に返信した。もれなくハートマーク付き。自然と顔がにやけた。

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