06

 
地下鉄を乗り継ぎ、ウォール駅まででてきたものの、また昼過ぎの時間帯のせいで、名前がいそうなイメージのあるバーは開いていない。リヴァイは記憶をたどり、名前が以前、根城にしていた漫画喫茶へと入った。雑居ビルの二階にあるこの漫画喫茶には名前が月単位で借りている個室があるはずだった。客を装い、名前がいた個室を観察するが、そこには見知らぬ客が入っていた。どうやら彼女はもう契約をしていないらしい。その個室にいた人間が会計を素通りしたのを見て、リヴァイはその女も名前と同じように漫画喫茶を寝床代わりに使う人間だと察した。その横顔に見覚えがある。

「おい、お前。名前について知っていることを全て吐け」
「ええっ!いきなりなんなんですか!」
「お前の顔、見たことあるぞ。確か……家出少女の売春斡旋に関わっていた一人だな?」
「売春斡旋なんかしていませんよ!誤解です!」

人気のない裏道でリヴァイはサシャの前に立ち塞がった。リヴァイが掲げた警察手帳に恐れをなしたサシャは歩きながらフライドポテトを食べていたせいで油のついた手をぶんぶんと振る。そして逃げるように振り返ったその隙にリヴァイはサシャの手首を掴んだ。もちろん、油がつかないように。

「お前みたいな奴は余罪を調べればぼろぼろでてくるんだろうな。なんなら公務執行妨害で逮捕してもいいんだぞ」
「そんな!横暴です!」
「ここで捕まるか、そうだな、そこのファミレスで飯を食いながら名前について話すかどっちがいいか選ばせてやろう」
「……」

この女は名前と一緒に家出少女になにかしていたはずだ。名前は家出少女やパチンコ屋の下働き、シーシャバーの店員から情報を貰っていたと話していたことがある。情報の代償として、家出少女に名前達がどう関わっているのか詳しいことはリヴァイにはわからないが、恐らく、バイト先や寝床の斡旋程度だろう。

「どうする?」
「…あなたはどうして名前さんを探しているんですか?」
「あいつから聞きたいことがあるからだ」
「確かあなたは名前さんの雇い主の一人じゃなかったですっけ?」
「そうだ」
「契約きられちゃったんですか?それはお気の毒にというか……えっと、」

サシャの言う雇い主の一人という言葉が気になった。だが、今それを尋ねてしまうと話題がそれてしまう。サシャは何かを思い出すかのように斜め上のビルに視点を彷徨わせた。

「ほ、本当にすみません!」
「は?」

サシャが勢いよく頭を下げる。訳が分からないリヴァイだったが、彼の耳は異音を捉えていた。風の抵抗を受けてなにかが落ちてくるような音。上を向いたリヴァイは自分の前、およそ一メートル先に落下しようとしている黒い塊を捉えた。手榴弾なのかスタングレネードなのか判断はつかなかったが、リヴァイは反射的にサシャの腕を離し、後ろに飛び退き転がるようにしながら背を向けた。リヴァイの並外れた動体視力が、窓から下を覗き見る名前の姿を捉えた気がした。

「く、そっ…」

固く目を閉じたリヴァイの瞼の裏でそれは轟音を響かせ閃光を炸裂させる。鼓膜が破かれたのではないかと思うような耳の痛みによって判断力も失ったリヴァイがまともに立ち上がるころにはもうサシャはどこにもいなかった。


■ ■ ■


咄嗟に目を瞑り、耳を塞いだサシャはくらくらとする視界の中で誰かに手を引かれて走っていた。何回か角を曲がり、大通りを抜けてまたビルの中を駆け抜ける。ようやく足が止まったのは中華料理の前だった。

「少し早いけど、ご飯にしましょう、サシャ」
「は、はい…?」

状況の飲めないサシャはキョロキョロと辺りを見回す。そんなサシャを置き去りにして名前は店の中に入っていった。予約をしていたらしく、個室へと案内される。

「好きなものをどうぞ、遠慮はいらないわ」
「えっと、じゃあエビチリとピータンと……チャーハンをお願いします」
「あとジャスミンティを二つ」

注文を受け付けた店員が一礼し、扉を閉めた。完全な密室になった部屋で名前はサシャを見ながらニコニコと笑う。先ほどのことを聞いてもいいのか逡巡するサシャに名前は話しかけた。

「で、頼んでおいたお仕事は終わりそう?」
「は、はい!コニーに頼んで事務所の方に盗聴器とカメラを仕掛けておきました。盗聴器というか、通話状態を繋げっぱなしの電話なのですが……」

おどおどとサシャは告げる。それを聞いて目の前の彼女は満足気な顔をした。地雷は踏まなかったらしいとサシャは胸を撫で下ろす。短くはないつきあいから知っている。彼女は怒ると本当に怖い。運ばれてきたジャスミンティに口を付ける名前の目は据わっていて、サシャのなかの第六感が深く関わらない方がいいと告げていた。

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