真っ暗な明日


ローはここのところ毎日私の家に訪れていた。終わりが近いことを否が応でも感じさせられた。それでも、なんでもない日常のように振舞っていた。

夜、体を重ねた後の静寂の中、ローは窓辺に寄りかかって月の見えない空を見上げながら呟いた。


「明日、出航する」
「そう……」


私は短い返事しか出来なかった。ローと出会ってからの二ヶ月弱の記憶がよみがえる。
激しい恋愛ではなかった。だけど、私が今まで経験した中で一番濃い感情だったと思う。ローに惹かれてしまった。それは紛れもない事実で、そして別れもまた覆せない現実だった。


「今まで世話になった」
「ううん。私こそ、ローと一緒にいれて楽しかった」
「…泣くな」


ローはそう言って私のもとへ来てそっと目尻を拭ってくれた。そう言われてから初めて自分が泣いているということに気付いた。恥ずかしくなり、笑ってごまかそうとした。人前で泣くなんて、両親が死んだ時以来である。強く生きなければならない、弱みを見せてはいけないと常に気を張ってきた。こんな、恋愛ごときで涙を流すだなんて。そうは思っても止まらなかった。


「はは、ごめんね。普段こんな泣いたりしないんだけど。なんでかな…」
「……俺は、いつ死ぬかもわからない。約束は出来ない。だから、俺達の関係はここで終わらせる」


曖昧にじゃなく、きちんと言葉で決別をしてくれるのは、彼の優しさだろうか。

ついていきたいと言ったら、どうなるのだろう。一緒に海に連れて行ってほしいと、そう頼んだら彼は連れて行ってくれるのだろうか。
バカバカしい、と思った。彼はきっと私を連れて行かない。彼の夢に私は交わることが出来ない。


「うん。分かってる。ローがそういう結論を出すことは、分かってた」
「ユウリ、俺は…」
「朝まで、一緒にいて。お別れは言いたくないの。いつかまた、会えるかもしれないでしょ?」


私を抱きしめる腕は温かくて優しかった。
「俺を待つな」とローは言った。もしもの未来は訪れない。勿論可能性がゼロじゃないことはお互い理解している。だけどそれに期待するような人生を送ってほしくないということだ。私達の関係はここで終わり、甘く短かった二ヶ月は思い出に変わる。
好きにならなければ良かったとは思わなかった。出会ってしまったんだ。惹かれあわずにはいられなかった。

このまま一生、夜が明けなければいいと思いながら、私はやがて眠りについた。


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