さよならいつか


本当は見送りには行かないつもりだった。

家にいても、朝まで一緒にいてくれたローの温もりがありありと残っていて辛くなってしまい、街をぶらぶらと歩いていた。途中で働いている店のオーナーに会い、「こんなところで何してるんだ!」と大きな声で私を呼び止めた。


「何よ、今日はお休みをもらってるはずだけど」
「馬鹿野郎。あの入れ墨男、今日島を出て行くんだろ?ほら、さっさと見送りに行け!」
「……行かない」
「はあ?変な意地張ってないで、行っておけ。まずは行ってから後悔しろ、それでも遅くない」


オーナーが大きな声で私を急き立てるので周りの注目を集めてしまった。行く素振りだけでも見せないと担いででも連れて行かれそうだったので、私は仕方なくオーナーの言う通りロー達の船がある港へと向かった。
口調はぶっきらぼうだし厳しい人だけど、こういうお節介な部分もある人だ。だからこそ街の人から好かれて、私もなんだかんだで頼りにしてしまうのだけれども。

海賊の船が止まる港は、少し寂れている。黄色い船が見えた。まだ出航していないようだ。私は遠くから船を眺めた。あの部屋での別れが最後になるはずだった。ローはもう、船に乗り込んだのだろうか。


「こんなところで何してる」
「えっ?」


後ろから聞こえた船に振り向くと、そこにはなんとローがいた。びっくりして私は尻もちをついてしまう。そんな私を見て不思議そうに手を差し伸べてくれた。手を取って起き上がる。
最後の買い出しに行っていたとのことだった。船は他の仲間が準備をしていてくれて、もう一時間もしないうちに海に出るらしい。


「別れは言いたくないんじゃなかったのか?」
「……意地悪」
「フッ……、そうだな、意地の悪い言い方だったな」


ローはそう笑いながら言った。この人の笑顔を、声を、私は手放さなければならないのだろうか。ずっと一緒に居たい。その思いが体中をめぐって、私は気付くとローに抱きついていた。


「ユウリ」
「ロー大好きよ」
「……ああ」
「待ってるから」


彼もまた優しく背中に手を回してくれた。永遠とも思えた時間だったが、やがてどちらともなくゆっくりと体を離した。私は多分また泣いていたと思う。頬を生暖かい涙が伝う感覚があった。ローは私を愛おしそうに眺めていたと思う。だけど、今度は涙を拭ってくれなかった。


「俺は、約束はしない」
「分かってる。私が勝手に待つだけ。この島じゃなくても、私はまたいつかローに出逢えることを信じてる」


ローはふわりと笑って私の頭を撫でた。そして、くるりと背を向けて船へと向かって言った。
私には彼を止められない。一緒に船に乗ることも出来ない。だからこの別れは必然で、だけど私は彼を諦められなかった。

またきっといつか、そんな日が来るのかは分からないけれど……。彼の背中を眺めながら、私はこの二ヶ月の甘く苦い記憶をそっと撫でるように思い返した。
 



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