色鮮やかに奏でて


自分の家に男を招いたのは、随分と久しぶりだった。しかも、その日に出会ったばかりの名前しか知らない男を呼ぶだなんて。

しかし、朝起きると隣に彼の姿は無かった。私は頭を抱えてため息を吐いた。やってしまった……。見ず知らずの海賊と勢いで一夜を過ごすだなんて。
起き上がってコップ一杯の水を飲む。昨晩のことはちゃんと覚えている。
私の仕事が終わり待ってくれていたローと共に、もう一軒飲みなおしに行った。彼は多くは語らなかったが、なんとなく彼とは波長が合うような気がして、彼もまたそう感じていたようで、閉店の時間になり店を出た後も名残惜しく、私は思わず家に誘ったのだった。
家について、シャワーを浴びる間もなく私達は抱き合った。陳腐な言葉ではあるが、運命なんてものがあるとしたら、こういう出会いなのかもしれないなんて思ったりもした。

とはいえ、何の置手紙も無く彼は消えており、私が昨晩感じた運命は気のせいであったことが空しく証明されてしまった。

何もしなくても女から寄ってくるような見た目の男だ。きっと昨晩のようなことは日常茶飯事なのだろう。私だって夢見る乙女なんていう年頃ではない。この失敗は痛いが、しかし尾を引くような出来事でもない、と自分を励ました。


それから二日。彼と会うことは無かった。なんとなく、ショーの終わりに店を見渡してしまうが、彼の姿は無く、そのことに落胆する自分が情けなかった。
しかし、今日は違った。ショーが終わって挨拶回りをしていると、店の一番奥の席に彼の姿があった。私は驚いて、そしてその時相手をしていた客との話を早々に切り上げて、彼のもとへと駆け寄った。


「ロー!来てくれたのね!」
「ああ。…しばらく来れなくて悪かった」
「待ってね、すぐ上がるから。待っててね!」


私はそう念押しして急いで裏へとまわった。バタバタと着替えて慌てて席へ戻ると、先程と変わらずローは座っていて、私は安堵のため息を吐いた。


「もう来てくれないかと思ったわ」
「船の修理だとか、色々手を離せなかったんだ。お前の家の方に行こうかと思ったが、場所もうろ覚えだったし」


ばつが悪そうに彼はそう言った。会おうと思っていてくれたことが嬉しくて、私は首を振った。
ショー終わりの挨拶も途中に抜けてきてしまったせいで、周りの視線が集まっていることに気付いて、私は彼を店から連れ出した。


「仕事、途中だったんじゃないのか?」
「厳密に言えば仕事自体は終わっていたわ。客への挨拶はいわば私個人のサービスよ。でもいいの、せっかくローが来てくれたんだもの」


私は笑顔で彼の手を引いてそう言った。自分がこんなにも素直に感情を表に出していることに、自分自身驚いていた。彼もまた口元に微笑を浮かべていて、私と共に店を出たことを楽しんでくれているように見えた。
そのまま私の家へと向かって、今度はすぐに体を重ねることはせずに、家にあるもので軽く乾杯をした。
ローからは、今乗っている船の話、仲間の話を聞いた。船は希少な鉱石を使った潜水艦だそうで、修理が難しいらしい。私は店の常連に、島の裏側にある小さな造船所の所長がいることを思い出し、彼の話を伝えた。海賊専門で商売をしている造船所であり、人目につかない場所に店を構えているため、彼らが知らないのも当然だった。ローは明日にでも仲間と訪ねてみると言った。お礼も言われて、彼の役に立てたことが嬉しく思えた。

他愛もない話で、気が付いたら夜が明けていた。一夜を勢いで過ごした相手と、まさかキスすらせずに夜明けを迎えるとは思わなかった。
どちらともなくそろそろ寝ようかと、私達は小さなベッドで抱き合って眠った。キスはしなかったが、私が彼の手を取ると彼も握り返してくれた。


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