白昼の迷子


「あれ、シャンクスは?」
「お頭なら、朝方に街の方へ行くって出て行ったきりだな…。てっきりアンタと出掛けるのかと」
「私は知らないわ」


翌日、昼過ぎに目が覚めると船内の何処にもシャンクスはおらず、近くにいた船員に聞くとどうやら出掛けたとのことだった。

昨晩は少し飲み過ぎたのかもしれない。頭が鈍く痛む。街の祭りの雰囲気にのまれて、ついついシャンクスに言われるがまま飲み食いしてしまった。彼といると、いつのまにかガードが緩んでいて、普段だったら絶対に海賊の男とお酒を飲んだりしないのに、こうして記憶が曖昧になるほど楽しんでしまっているのだ。彼の屈託のない笑顔は、私の頑な態度をとかし、気が付いたら彼のペースに乗せられている。
なんだか悔しいような恥ずかしいような気持ちを抱えて、しかしどうすることも出来なくて、私は手持無沙汰に船内を一人歩きまわることにした。

シャンクスが副船長に牽制をしたせいか、船員は私を物珍し気に見ることはあっても、直接声をかけてくることは無かった。見た目はガラの悪い男達だったが、船長への忠誠は絶対なのだろう。女だけでなく、男も魅了する彼の手腕になんだかまた悔しい気持ちが募る。

そうしてしばらくすると、遠くから「ユウリ!」と大きい声で呼ばれ、振り向くと船の下にシャンクスがいて私に向かって手を振っていた。
そんなに大きな声で呼ばなくてもいいのに。気恥ずかしくて、返事をせずにふいっと顔を背けると、シャンクスはもう一度よく通る声で私を呼び、そして勢いよくこちらの船に飛び乗ってきた。


「わっ…!嘘でしょ、今、下から飛び乗ってきた?」
「あぁ。ていうか、気付いてんなら無視すんなよ」


軽く頭を小突いてシャンクスはそう私に笑いかける。とんでもない運動能力だ。私は船の縁から先程までシャンクスがいた場所を見下ろした。私だったらこんな高さ、飛びつくことだって出来やしない。改めて規格外の男なんだと少し引き気味に感心していると「ほら、これ見ろよ」と言って彼はカバンを私に手渡してきた。


「何……えっ、これ、私の…!」
「あぁ、暇だったからな。取返してきた。中身、ちゃんと揃ってるか?あそこにあるユウリのっぽい荷物は全部持ってきたつもりだったが」
「私のよ。中身も…何も欠けてない。……ありがとう」
「礼を言われるほどのことじゃねェよ。それより、ちゃんと全部お前の手元に戻って良かった」


受け取って中身を確認する。服や日用品などのこまごまとしたもの、そして数枚の写真などカバンの中身は手放してしまった時から変わっていなかった。
シャンクスは鞄の中身を確認する私を見てニコニコと笑っていた。ふと、彼の腕を見ると浅い切り傷が付いており、血が流れた跡が見えた。


「シャンクス、その腕…」
「ん?あぁ、傷がついてたか。大丈夫、荷物には汚れてないはずだから」
「…怪我、手当するわ」


私は怪我をしていない方の彼の腕を引いて医務室へと向かって歩き出した。大したことねェって、と焦ったように言う声が聞こえたが、私は無視して彼を振り返ることも手を離すこともしなかった。




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