二人分の影


「うーん、こりゃ中に入るのは難しいな」
「多分、私の荷物は既に回収されているでしょうね」


私の泊まっていた宿屋を向かいのカフェから眺めたが、明らかに物騒な見た目の男達が出入り口を見張っていた。私が荷物を取りに戻るのを待ち構えているのだろう。
荷物はとっくに回収されてきっとオーナーのもとへ届けられているに違いない。あの荷物には私の行方を特定するものは入っていないから(というよりこうしてシャンクスの船に身を寄せることになったのは成り行き以外のなにものでもなく、私自身予定していたわけではなかったのだから当然である)、きっと既に中身を確認し私を捕まえることに何の役にも立たないと分かったら捨てられているだろう。

ため息を吐くと、シャンクスが「残念だなぁ」と眉を下げて私を慰めてくれたが、私は首を横に振って「気にしてないわ」と答えた。


「本当にあの荷物自体に未練があるわけではないから。今までだって、何度か荷物を丸々船に忘れて手放したこともあるのよ」
「へえ、意外に抜けてるところもあるんだな」
「そりゃあ、人間ですもの」


人からよくしっかりしてそうだとか言われることが多かったが、実際の私はそうでもなかった。今回のような事件に巻き込まれたのも、私がもっと下調べをしておけば防げたことかもしれなかった。
女が一人で旅をしながら稼ぐためには、人から舐められないことが最も身を守るために必要なことであり、気を張って気丈に振舞っていたのだから、そう見られることはある意味自分で望んでいることでもあったが、心のどこかで寂しく感じてしまっているのも事実だった。本当の自分を知ってもらいたい、だなんて、そんな少女みたいなことを思っているわけではないが……。


「この後、どうする?そのオーナーとやらのところまで、荷物を取り返しに向かうか?」
「ううん、いいわ。そこまでするほどの物じゃないもの。ここにいて見つかるのも時間の問題だろうし、船に戻りましょう」
「そうだなァ……」


席を立った私に、シャンクスはなんだか煮え切らないような返事をしたが、一緒に立ち上がってさっと会計をしてくれた。
店を出るとシャンクスが隣に並びさりげなく肩を抱いてきたので、私はその手をぱちんと軽く叩いて払う。


「ちょっと、どういうつもり」
「肩組むのも駄目なのか」
「そういうことがしたいなら、別の女を当たってちょうだい」
「悪かった、調子乗ったのは謝るから、もう少し街を見て行こうぜ」


笑いながら謝る彼からは誠意を感じられなかったが、宿屋まで一緒に見に行ってくれたことには感謝しているし、特に予定があるわけでもなくシャンクスの提案を渋々受け入れることにした。

私がこの島に来た時よりも、街は賑わっており観光客も増えていた。ここ数日、この島では建国記念のお祭りが行われており、クルーズ船の出航も建国祝いのイベントの一つであった。顔を隠して派手な動きをしなければ、身を隠すのはそこまで難しい話ではなかった。

シャンクスは私よりも多くの街や島を旅してまわって見て来ているはずなのに、街で見かける様々な出店やショーをどれも興味深く見ており新鮮な反応で楽しんでいた。
まるで子供の様にはしゃぐ男だと思った。変装しているということもあったが、あの海賊たちから恐れられる四皇の一人であるとは、身に纏う雰囲気からは微塵も感じられなかった。
不思議な感覚だった。今まで出会ってきたどの男達とも違う。気付いたら彼のペースに乗せられてしまっている。


「どうかしたか、ユウリ」
「ううん。なんでもないわ」


はぐれると危ないぞ、と彼は私の手を取って歩き出した。「ちょっと」と抗議したが「まぁまぁ」と笑いながら彼は私の手を握って離さなかった。強い力ではなかったし、私がもっと抵抗すれば彼はきっとすんなり手を離してくれたかもしれない。だけど、私はその時既に彼の空気に惑わされて、流されてしまっていて、「まぁ、手ぐらい、いいか」と思ってしまった。そのまま彼に手を引かれて、夕暮れの街を二人で見て回った。

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