やさしいしんぞう


予想通り、街を歩くと女の人の視線が船長へと、集まる。海軍基地が近く、海賊が比較的立ち寄らない港町だったので、私達は一般人のような格好をしていた。船長は、刺青を隠すために長袖を着ていたし、私も、普段のようにつなぎではなくて、青いシャツに膝丈のズボンを穿いていた。どちらかというと長くとどまらなければならないので、余計なトラブルは避けたかった。
船長は帽子をかぶっていたが、女の人達はその顔の端麗さをすぐさま見抜いていた。私は、そんな船長の隣を歩ける事に誇りを持ったが、同時に、女の人達の私を見る目が、あまりいいものとは思えなくて、少し辟易していた。
私は船長を見上げた。どことなく、いつもより上機嫌のように見えた。それに気付いただけで、周りの視線でためていた嫌な気持ちがすっとなくなって、頬が少しほころんだ。


「行きたい場所、あるか?」
「私は、大丈夫なので、船長が行きたいところどうぞ」
「…そうか」


途中立ち止まって、船長はそう聞いてくれた。私は船長と二人で歩けるだけで充分だったから、とくに行きたいと思う場所はなかった。船長は少し考える素振りをしてから、再び歩き出した。船長が歩き出してから、少しだけ、しまったな、と思った。どこでもいい、というのが一番困る返答で、相手も楽しめそうなところを提案するのが、出来る女のテクニックなのだ、というのを何かで読んだことがある。船長、困ったかな。何も提案しないのは、逆に失礼だったかもしれない。
少し広い道にでて、人通りが増える。視線も、同じ様に増える。私は下を向いて、なるべく周りを気にしないように、船長の後をついていった。

船長が入ったのは、小さなブティックだった。女の人のアクセサリーや帽子などが多く置いてあった。こんなお店に、何の用だろうと思ったが、船長は私に何の説明をすることもなく、スタスタと店内を見て回って、そして小さな帽子を一つ買った。船長の帽子に少し似た、白い可愛らしい帽子だった。一体誰に上げるためなのだろう、と疑問に思って船長が会計を済ますのを待っていると、その場で商品のタグを切ってもらうのが見えた。

船長は私のところに戻ってくると、「これ、かぶれ」と有無を言わさぬ雰囲気で私に帽子を押しつけた。私はびっくりして船長をまじまじと見つめ返した。一体、どういう意味なのだろうか……。


「視線、気になるんだろ。帽子があれば少しはマシになるはずだ」
「え……」
「いいから、早くかぶれ」


ドキン、と胸が跳ねた。船長、私が女の人たちの視線を耐えがたく思っているの、気付いてたんだ……。私は急いで帽子をかぶり、近くに会った鏡にその姿を映してみた。


「……可愛い」


帽子はとても可愛くて、サイズはぴったりだった。船長を見上げると、船長はすぐに視線を逸らしてしまった。もう一度鏡を覗き込む。船長からの、大事なプレゼント……。


「船長、ありがとうございます。すっごく、嬉しい」


思わず、にっこりとほほ笑んでしまう。船長が私のことを気にしてくれて、そしてわざわざプレゼントまでしてくれたことが、これ以上に無い嬉しさで、本当に、やっぱり今日の朝、勇気を出して船長を誘って良かったなあと、心から思った。

 
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