てをのばしたさき


「島が見えたぞー!」
「上陸の準備をしろ!久々に遊べるぞ!」


クルーが浮足立ち、船内がバタバタと忙しくなる。今日は、待ちに待った、久しぶりの島への上陸。甲板から遠くに見えた港町は、そこそこ大きくて、にぎわっているように見えた。

私はベポを誘って街に出ようとしたが、彼は今日は船で留守番をしなければいけないらしく、じゃあ誰を誘おうかと悩んでいた。
……もしも、もしも、今から誰かと会う前に、一番最初に船長と会えてしまったら、船長を誘ってみようかな。想像してみる、二人で街を歩く姿を。船長はとてもかっこいいから、街行く女の人はみんな船長を見るだろう。そして隣にいる私を見てどう思うだろうか。彼女に、見えるだろうか、それとも妹とか、そういった存在に見えるだろうか。
頬を少し赤くしながら考え事をしていると、前から来ていた誰かにまたもや正面衝突をしてしまった。慌てて顔を上げて、ごめんなさいと謝った。


「…またお前か、なまえ。いい加減前見て歩け」
「せ、船長………!」


船長は呆れたように私を見下ろしていた。まさかここで船長と遭遇するとは思わなかったために、うろたえてしまう。どうしよう、街に誘おうか、でももしも断られたら……。
悩んでしまい動けないでいると、怪訝そうな顔をしながら船長は私の横を通り抜けようとした。あ、船長、行っちゃう…。そう思った瞬間、私は無意識のうちに船長の服の裾を引っ張っていた。


「…?」
「あ、船長、あのっ……。今から、その、船長が良ければ、一緒に買い物とか、街見たりとか、どうですか…?」


精一杯の誘い文句。恥ずかしくて顔は上げられなかったから、船長が今どんな表情をしているのかは分からない。どうしよう、断られてしまったら…。いや、きっと断られる。だって、船長が私なんかと一緒に、デ、デート、してくれるはず、ないし。私なんかが隣で歩くなんて、そんな、厚かましい。ああ、もっとちゃんと考えて行動すればよかった。そしたらこんな悲しい想いはしなくて済んだのに。船長の答えを聞きたくなくて、ぎゅうと、目をつぶった。


「ああ、いいぞ」
「……………………え?」
「先、船下りてろ。すぐに行く」


予想に反して、船長はあっさりと私の誘いを受けて、そして自分の部屋へと向かってしまった。私は茫然として船長の背中を見つめる。今の、幻聴じゃ、ないよね……?船長は、私の誘い、OKしてくれたんだよね……?
何度も自分に確かめてみる。本当に、本当にいいのかな。どうしよう。嬉しい。今私、すごくすごく嬉しくて、心臓が馬鹿みたいになっている……。
ほころんでしまう頬を抑えきれずに、浮足立つ気持ちを必死に隠そうと努力しながら、私は船を下りて船長を待った。

 
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