「ごめんね、じゃあまたあとで」
「うん、またあとで」


ユキに手を振って私は机の上に勉強道具を広げた。
今日もサッチ先生の補習があるらしく、ユキは足繁く通うみたいだ。私は中間テストが近いので、英語よりも苦手な数学の勉強をするためにユキには付き合わず空き教室で一人勉強することにした。
彼女だって英語よりも他の教科の方が危ういはずだけど、と思いつつも人のことより自分のことである。前回も前々回のテストも数学は赤点ギリギリ。担任であるマルコ先生は私達の数学も担当していて、私は一学期末の面談の時に先生に苦い顔をされたのを覚えている。
今回の範囲は特に難しいし、頑張らなければ。私は問題集を広げて解き始めた。

自習をはじめて1時間くらい経ったとき、誰かが教室に入ってくる気配がして私は顔を上げた。


「あ」
「川村か。こんなところで一人で何してんだよい」


やって来たのはマルコ先生だった。私が一人でいることにびっくりしてるようで、私はユキを待っているんだと説明した。


「ああ、なるほどな。あいつもサッチの追っかけか」
「そうなんです。サッチ先生って、なんであんなにモテるんですかね」
「さぁな…それは俺も知りてぇよい。っていうか、お前もサッチファンの一人じゃなかったのか?」
「私がですか?」
「いつも桂木と一緒にサッチの補習に出てるじゃねえか」
「私は違いますよ!ユキに連れられて出てただけです」
「なんだ、そうだったのかよい」


マルコ先生はそう言って少し笑った。そして、私の前の席に座り後ろを向く形で私の広げていた問題集を覗き込んだ。私はマルコ先生の意図がよめなくて首をかしげると、先生は言った。


「数学、苦手だったろ。桂木が帰ってくるまで、教えてやるよい」
「え、いいんですか?」
「じゃなきゃお前、今回の範囲絶対赤点取るだろ」
「う…、確かに」
「つまづいてるとこ、見せろい」


私は自分のノートを見せて、こことこことここが…と分からないところを指差して言った。先生は「それじゃ全部じゃねぇかよい」と言って困ったように笑った。その笑顔が、なんだか少しカッコよく見えて、「マルコの方が良い男」と言ったエースの意味が分かったような気がした。



 
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