高校生活の最終学年。クラス替えの紙が貼り出されて、自分の名前を探す。
今年もユキやエースと同じクラスで喜んだのも束の間、担任教師の名前を見て、私は固まった。


「担任、マルコ先生…なんだ」


ユキが隣で呟く。ホワイトデーまで私は先生からの何かを待っていた。だけど先生からの返事は一切無く終業式を迎え今に至る。
気持ちを諦めるきっかけを作り、そして時は過ぎた。もう何も期待しない。何も感じない。そのつもりでいたから私はユキに笑いかけた。


「もう大丈夫だから、心配しないでいいよ」
「でも、七花…」
「私にはユキやエースがいるから。それだけで充分!ほら、早く教室行こう?」


私の無理に繕った笑顔はきっとバレていただろうけど、ユキは私の言葉を信じることにしたようでそれ以降その話題を出すことはなかった。





放課後になりユキとエースと帰ろうとしたが、忘れ物に気付いて私は一人教室へと戻った。
教室には既に誰もおらずしんと静まり返ったいた。外は曇り空のせいか教室は異様に暗くて肌寒く、少しだけ怖かった。急いで机の中に入れっぱなしだったペンケースを取って帰ろうとしたら、教室の後ろの扉が開く音がして私は驚いて振り返った


「……川村、か?」
「あ、せ、先生…」


入ってきたのは、担任になったマルコ先生だった。ほっとしたのも束の間、お互い視線をすぐにそらしてなんともいえない空気になる。
先生も気まずそうな顔をして「早く帰れよ」とだけ私を見ずに言い、教室を出ていこうとした。その背中を、私は思わず呼び止めてしまった。


「待って!」


先生は怪訝そうに振り返る。このまま先生と別れてしまったら、きっとこの開いた距離は縮まらないだろう。それなら……。私は先生へと一歩近付いた。


「先生……。この前のことは、忘れてください」


先生は背中を向きかけていたが、私の声にこちらを振り向いた。


「私が勘違いしてました。先生のこと、先生として好きなんです。それ以外の気持ちはありません。だから、もう、私も先生のこと避けないから、先生も私のこと、避けないでほしい…。前みたいに、普通に仲良くしたいです………」


最後の方は絞り出したような小声になった。先生の目を見て言っていたはずなのに、いつの間にか私の視線は教室の床へと落ちていた。
幾らかの沈黙の後、先生のため息のような声が聞こえた。顔を上げると、先生は少し困ったように呆れたような笑みを浮かべていた。


「俺こそ、あの時は言い過ぎた。悪かったよい。今年一年、またよろしくな」


先生はそう言って私に一歩近付いて、私の頭を優しくぽんぽんと撫でてくれた。自分の気持ちに嘘をついた罪悪感と、だけど先生と仲直りができた嬉しさで複雑な感情だった。少なくとも今この瞬間だけ見れば私の選択は間違ってなかったと、そう思うことができた。



 
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