振られることなんて、分かり切っていた。………嘘。本当は、期待していた。私は自惚れていて、現実なんか少しも見ていなかった。先生だって、私が先生を想うように私のことを好いてくれていると、そう思い込んでいた。
先生はいつだって私に優しかったし、私の思い込みと言うには過剰すぎるほど特別扱いされていた。だからこそ先生と生徒という関係で、私の恋が成就する可能性なんて限りなく低いことを忘れてしまったのだ。

ユキとエースには、振られた翌日に告白したことを報告した。血の気の多いエースは「マルコのところにどういうことか聞いてくる!あいつだって七花のことを……」と息巻いて先生への元へと向かおうとしていたけれど、私は首を横に振って彼を止めた。これ以上、先生に迷惑をかけたくなかった。
私の気持ちを理解してくれたユキは、何も言わずに肩を抱いてくれた。優しい友人たちのおかげで、少しだけ心が救われた気がした。

それからしばらくのあいだ、私は先生の授業を受けるのもつらかった。授業中はずっと下を向いて先生を視界に入れないようにして、休み時間もなるべく教室から出ないようにして、廊下でばったり先生と会ったりしないように努めていた。忘れることが一番だってわかっている。だけど、そう簡単には忘れられなくて、むしろ余計に好きな気持ちが募っていくばかりだった。





気が付いたら、先生に振られてから数ヶ月経っていた。今日は学校中で仄かに甘いチョコレートの香りが漂っている。バレンタインデー、という口実に乗っかり、放課後の教室では幾人かの男女が告白をしたりされたりしていた。
去年のバレンタインデーを思い出す。「特別」と言って先生が私の渡したチョコレートを受け取ってくれたことを、忘れられるはずがなかった。
エースにチョコを渡したいから二人きりにしてほしいとユキに頼まれたため、私は一人で静かな校舎内を歩いていた。そして、あの日以来一度も来ることのなかった先生がいつもいる講師室へと辿りついた。

ノックをする。声は返ってこない。誰もいないのを確認してから私はそっと部屋へと入り、鞄からラッピングされたチョコレートを取り出した。そして先生がよく使っている机の上に、それをそっと置いた。

私は少しの感傷を持って部屋を見渡した後、すぐに廊下へと出た。外には相変わらず誰もいない。誰にも見られていないことを確認し、私はユキたちがいる教室へと急いで戻った。
机の上に置いたチョコレートには、名前は書かなかった。一番最初に見つけたのがマルコ先生であれば、それがきっと私が置いたものだと気付くかもしれない。もし気付いてくれたら、先生が私にリアクションをしてくれたら、そしたら私はもう一度先生へ想いを伝えよう。でも、もしも何もなければ、その時はもう先生のことは諦めよう。これは最後の賭けなんだ、と自分に言い聞かせる。振られたくらいじゃ消えなかったこの気持ちを諦めることができるかなんてわからないけれど、きっかけを作らないとずっと引きずってしまいそうだから…。
講師室の机にぽつんと置かれた場違いな小さな包みを想像して、それが先生の心に届きますようにと密かに願った。



 
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