「エース!」
「…七花」


その放課後、私は友達と帰ろうとするエースを呼びとめた。一瞬私を見て、その後気まずそうに目を逸らしたエースは、悪いと友だちに断って私のもとへと来た。「話があるの」と切り出した私に彼はただ頷いて、私達は一緒に教室を出た。

学校を出た後も二人はずっと無言で、沈黙を先に破ったのはエースだった。


「こうやって帰るの、久し振りだな」
「そう、だね」


そしてまた沈黙。エースが相当勇気を出して笑いかけてくれたのが分かるから、今度は私が、と思い口を開きかけた。しかしちょうど同じタイミングでエースも何か言おうとしたらしくて、二人して気まずくなってしまい、また黙りこむ。
そうこうしているうちに駅まであっという間にたどり着いてしまう。私は少し回り道になる宝庫王へと足を進めると、私の意図に気付いたようで何も言わずにエースもついてきてくれた。周りにはほとんど人がいなかった。私はどうにか口を開いたが、言葉は上手くまとまらなかった。


「あのね、エース。…私、エースの気持ちには、答えられない」
「……あぁ」
「エースのことは、好きだよ。エースみたいにカッコよくて優しくて楽しい人に好かれるのはとっても嬉しいけれど…。私 多分、エースが言ったのと同じ意味での『好き』っていう気持ちには、なれない。………本当に、ごめん」


顔を見て伝える勇気なんてなかった。俯き歩きながら、私はそうゆっくりと言葉を紡ぐ。
何もしゃべらないエースが怖かった。エースというより、この空気が痛かった。どう転んでも誰かを傷付けてしまうことが、辛かった。
しばらくして、エースは「まあ、そうだよな」とやけに明るい声で言った。顔を上げると、下手くそな笑顔をエースは浮かべていた。


「まぁ、こうなるよな、そりゃあ。お前が俺にそういう気持ち一切抱いてないことくらい、一緒にいたから知ってた。だけど、それでも言わずにいられなかった」
「…うん」
「困らせて、ごめん。それに、アイツとのことも…」


エースは顔を歪ませた。私も、困ったように再び俯いた。ユキの気持ちに、この間の一件でさすがに気付いたようだった。


「一応言うけどね、私がエースの気持ちに答えられないのは、ユキのことを気遣ったからじゃないよ」
「あぁ。それも、分かってる」
「……私、好きな人がいるの。エースじゃなくて、他に。好きになっても届かない相手だけど、それでも好きになっちゃった人がいるの」


エースを見ると、彼は悲しい笑顔で「知ってる」と答えた。


「それも、なんとなく分かる。…俺、結構長いこと、お前のこと見てたんだぜ」
「……そっか」


それからまた沈黙が流れた。エースの笑顔を見ていると、泣きたい気持ちが溢れてくる。さっきの言葉を撤回したくなるくらい……。だけど、そんなことは出来なかった。
戻りたい。前みたいに、仲良かった頃の三人に。別れ際になって、私は意を決して言った。


「ねぇ、前みたいに戻れないかな?」
「…七花」
「私、エースのこともユキのことも、他に代わる人なんかいないくらい、好きなの。三人でいるとすごく楽しくて安心できて……。私にとって二人と一緒にいる時間がとっても大切だったの。こんなこと、私に言う資格ないかもしれないけど、それでも…」


エースはため息をついて、そして困ったように笑って私を見た。その笑顔は、さっきと違って辛いものではなかった。呆れたような諦めたような、でも、悲しい笑顔ではないことは確かだった。


「俺だって、お前らと一緒にいる時すげぇ楽しかったし、できることなら前みたいに戻りてェよ」


そう言って、エースは右手を差し出した。突然のことに首をかしげると「握手、しようぜ」とエースは笑顔で言った。


「仲直りの。そんで、友達として、これからもよろしくって意味の握手。しようぜ」


エースの笑顔は太陽のように温かくて優しかった。私はその手を握り返す。エースの手は、とても熱かった。ぎゅうと握られた手から思いが伝わってくる。ごめんね。そう呟きそうになるのを我慢して、私も同じように笑顔を浮かべた。




 
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