「なあ、次は焼きそば食わねぇか?」
「エース食べすぎだって!もうどれだけ食べたか分かってるの!?」
「だって見てたら腹減るだろー!」
「ユキだってエース程じゃないけど結構食べてるじゃん。二人とも、食べてる時の幸せそうな顔がそっくり」


夏休み。定番のイベントである花火大会に、私はユキとエースと三人で来ていた。たくさん並ぶ出店で、二人はさっきから一緒にいろんなものを食べている。ユキは細いの本当によく食べるなあ、とちょっと羨ましく思ったり。ユキは、エースと一緒に来れて嬉しそうだった。私がいても良いの?と来る前に聞いたが、二人きりだと意識しすぎちゃうから七花がいてくれた方が良いの、というためいつも通り三人で遊ぶことになったのだ。

ユキは今日浴衣を着ており、いつも以上に気合を入れて髪形やメイクをしているのが分かり、私は微笑ましく二人を見ていた。一人じゃ気合入れすぎみたいだから、とユキに合わせて私も今日は浴衣を着ていた。動きづらいし少し暑いけど、夏らしいことをすることはなんだか楽しい気持ちに慣れた。
わぁわぁと言い争いをしている二人を見ていると、その少し後ろに立つ見慣れた姿に気付いて、私は思わず大声をあげてその人影を呼びとめた。


「マルコ先生!」
「は、何、マルコ?」


エースが私の声に驚いたように振り返った。マルコ先生は立ち止まってこちらを振り向いて、そして私達の姿を見て驚いたように目を見開いた。この喧噪の中、私の声が届いたことに驚きと嬉しさが沸き上がる。先生は、いつもと違って私服で、ラフな感じがまたかっこよくて、心拍数が一気に跳ね上がった。
先生の隣にいたのはサッチ先生だった。私達に気付くと、笑いながらこちらへ駆け寄って来た。


「お前らも来てたのか〜」
「サッチ先生とマルコ先生って本当に仲良いですねー!」
「ばか言え、こいつに無理やり連れてこられただけだよい。おれは人混みは好きじゃない」
「確かに、マルコ先生が花火大会に来るなんて、ちょっと意外です」
「いいところに来たな、奢ってくれよサッチ!」


文句を言いつつもサッチ先生に付き合ってあげるあたりが、マルコ先生の優しさだなあと思う。
エースが図々しくもサッチに抱き着きながらそうねだると、既に飲酒していて機嫌が良さそうなサッチ先生は「じゃあ一つだけならなんでも奢ってやるよ」と言って近くの露店へと足を向けた。二人を見てユキも「私もお願いしまぁす!」とサッチ先生達の方へと駆け寄って行った。
私とマルコ先生はその場に取り残されて、だけど道の真ん中で立って待っているのは周りの人の迷惑になると思い、少し離れた静かな場所で三人が帰ってくるのを待つ事にした。


「まさか先生たちに会うとは思わなかったです」
「おれもだ。もともと、来るつもりも無かったしな」
「そうなんですか?」
「ああ、おれは花火見に行くような女もいねぇし、サッチも最初は彼女と行く予定だったからな。けどあいつが、彼女と喧嘩したとかなんとかでそれでこうやって連れてこられたんだよい」


困ったように笑う先生は、だけど少し楽しそうだった。
私はといえば、会話の流れで先生に彼女がいないことを知ることが出来て、ほっと安堵の気持ちと嬉しい気持でいっぱいだった。良かった、彼女がいないなら、もしかしたら私にも望みはあるのかもしれない。なんて、少しポジティブな考えも出てくる。

私と先生はいろんな話をして、そして幾らか経ったあとで時計を見るとサッチ先生達が買い物に行ってから大分時間が経っていた。


「エース達、遅いな…」
「ここ分かりづらいしな…、サッチに電話してみるか」


先生はサッチ先生へと携帯から電話をかける。すぐに繋がったようで、電話の向こうで先生は話をしていた。
二人きりのこの時間が終わってしまうのは、少し、いや、かなり名残惜しいかもしれない。花火が始まるのはあと五分後くらい。いっそのこと、花火は先生と二人っきりで見たい、なんて思ってしまう。

電話が終わって、どうでしたか?と聞くと先生は大きくため息をついた。


「ここから大分離れたところにいるらしい。今から合流するのは難しいかもな…。お前には申し訳ないけど、ここでおれと二人で花火見る事になっちまうが…いいか?」


周りには人が少なく、穴場のような場所だった。花火が打ちあがる方角に、視界を遮るものはない。ちょうど腰掛けられるようなガードレールもあり、花火を見るには最適ともいえた。
思ってもいなかったラッキーに、私は大きく頷いて答えた。


「は、はい!全然、むしろ光栄です…!」
「ふっ、光栄ってなんだよい」


先生は私の返事に対しておかしそうに目を細めて笑って、私の隣に腰掛けた。


「浴衣、暑くねぇのかい」
「す、こしだけ」
「大変だなぁ。でも、似合ってるな」


ふわり、と柔らかい笑みとともに、そんな台詞を言われたらたまったもんじゃない。
私は自分の頬が熱くなるのを感じた。幸い、周りが暗かったからばれていないと思うけど。嬉しくて、だけど恥ずかしくて、視線をそらしたら、近くでキスをし始めたカップルがいて、なんだか自分の下心が見透かされたような気がして、ぶんぶんと頭を振った。


「どうした?」
「いや、あの…」
「ああ、そこでいちゃついてんのがいるもんな…」


私が挙動不審になったのを、近くにいるカップルのせいだと思った先生は、またおかしそうに笑って、私を見た。
その時、どーんと大きな音がして空に綺麗な花火が打ちあがった。


「……綺麗」
「花火なんて久しぶりにちゃんと見たよい。…確かに、綺麗だな」


花火を見ながら、時々横に座る先生に視線を向けて、先生の瞳にキラキラと光る夜空を見つめてみた。こんなに近くで、好きな人と、同じ景色を共有できるだなんて。
ゆったりとした幸せ。好きな人の隣にいるだけで、それだけで私は嬉しかった。この時間が続けばいいのに、と思いながら夜空に咲く花火を眺めていた。




 
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