プラトニック | ナノ

その奥に閉じ込め


エース君の頬が赤く染まっている。多分、私だって同じくらい赤くなってしまっているだろう。
夜道に手を繋ぎながら二人して突っ立っている姿は、傍から見たら随分と滑稽だったかもしれない。だけど、私は視線を逸らせなかったし、何か言葉を発することも出来なくて、ただ困ったようにエース君を見つめていた。
やがて、エース君が「家まで送る」と言って私の手を引いて歩き出した。


「えっ、いいよ。もうこんな時間だし、早く帰らないと…」
「俺が、ユイコさんを夜道一人で歩かせたくねぇの」
「エース君…」


前を歩くエース君の耳は赤く染まっていた。胸がキュンと疼く。繋がれた手を振りほどくことは出来ず、私はそれ以上抵抗せずに黙って彼についていった。
普段よりもずっと、エース君は歩く速度を落としてくれていた。それは私への気遣いなのか、それとも。エース君の手は大きくて熱かった。いつも座った姿勢で一緒にいることが多かったのであまり意識したことがなかったけど、背も高くがっしりとした体つきであり、あぁ彼は可愛い年下の少年ではなくてれっきとした男の子なのだと、そう否が応でも実感させられてしまう。

ようやくアパートが見えてきた。ほっとする反面、少しの寂しさも胸をよぎる。
家の前に着いたけど、エース君は手を離してくれなかった。


「えっと、もう、家ついたよ…?本当にそろそろ帰らないと、こんな時間に高校生がひとりで歩いてたら、補導されちゃうよ」
「………まだ、離れたくない」
「え?」


呟かれた言葉に思わず聞き返すとギュッと手を握る力が強くなった。ドクンと心臓が大きく揺れる。エース君の目は、いつになく真剣だった。


「離れたくない。まだ、ユイコさんと一緒にいたい。ていうか、俺、ユイコさんの特別になりたい」


聞き返すことなんて出来なかった。しっかりと耳に届いた言葉は、どれも勘違いをしてもおかしくない意味を持っていた。
私は高鳴る胸を誤魔化すようにして笑って、あいている方の手でエース君の肩を軽く叩いてみた。


「な、なに言ってるの。なんかエース君、変だよ」
「変なんかじゃないっす」
「だって、それじゃあまるで、エース君が私のこと、好きみたい…」
「好きだ」


私の言葉を遮るように、エース君はハッキリとそう言った。息をのむ。蛍光灯からパチパチと乾いた音が聞こえた。まるで、時間が止まったかのような空気だった。


「多分、ユイコさんが思ってる以上に、俺、ユイコさんのことがすげぇ好きです」
「私だってエース君のこと、す、好きだよ?」
「そうじゃなくて、付き合いたい、って意味の好きだって。……分かるだろ」


誤魔化しなんて一切きかなかった。最後は少し拗ねたようにそう言うから、ますます胸が苦しくなる。
彼の言葉を疑うことは出来なかった。でも、じゃあ、私の気持ちはどうなのだろうか。私がエース君に惹かれているのは、それは間違いない事実だと思う。だけど、私はエース君のようにしっかりと言葉にできるほど、この感情を理解しているのだろうか。
悩んだ末に、私はそっとエース君の手を握り返しながら返事をした。


「少し、待ってもらえないかな?」
「…待つ、って?」
「エース君の、受験が終わるまで。それまでは、今まで通りの関係じゃ、だめ?」


やっとひねり出したその答えに、エース君は少し固まって一瞬手が離れかけたけど、すぐにまた熱い手に強く力をこめられる。


「…分かった。受験終わったら、絶対、返事聞かせてください。俺、待ってるから」
「うん」


私は俯いた姿勢で視界にはエース君の足元しか映っていなかったけど、エース君の視線を強く感じていた。顔は上げられなかった。まだ、心の準備が出来ていないから。


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