同じ布団だからマルコの体温を感じることが出来てひどく安心する。
私に背を向けて寝ている彼の背中にそっと手を合わせた。微動だにしない大きな背中は、決して言葉で私を傷つけない彼の唯一の拒絶だった。


あの夜。敗北を喫し、マルコは重傷を負った私を連れてこの村へ来た。死んでも良いと思っていたし、実際に死ぬつもりだった。だからマルコを庇う様に攻撃を正面から受けたのだ。もう誰も、目の前で死ぬのを見たくなかった。

数日間は高熱で意識も朦朧としていたようだった。目が覚めると、疲れ切ったマルコだけがそこにいた。
それから体は徐々に回復していったが心は傷ついたままであった。毎晩あの日の夢を見た。
眠れなくて、苦しくて、もがいて。
私は卑怯だと分かっていたけど、マルコに縋ってしまった。これ以上一人で耐えるのは、無理だったのだ。


「マルコ、お願い。……私を抱いて」


マルコは答えなかった。だけど、優しい手は私を抱きしめて、彼の熱い指先が、私が彼を守るときに出来た胸元の大きな傷をそっとなぞった。
それが答えだと私は判断し、彼の唇に自分の唇をそっと重ねた。服を脱いで、直接肌と肌を重ねあい、お互いの体温を確かめ合った。

体を重ねている最中、マルコは一言も喋らなかった。命を救った私を彼が拒絶するはずがないのは分かっていた。彼だってひょっとしたら私以上に傷ついていたのに、私は我が身可愛さに彼の弱みに付け込んでしまった。
お互いの呼吸だけが部屋に響いた。それでも、私は救われたのだ。
翌朝、彼は何事もなかったかのように私に接した。だから私も、敢えて昨晩の情事には触れず普段通りに生活した。


あの夜以来、マルコは私に触れることを極端に避けるようになってしまった。
それは彼があの夜、私に流されて体を重ねてしまったことを後悔している証だった。


「マルコ」

背中を向けて寝るマルコに声をかける。多分、起きている。私のためか、それとも。
寝たふりをしているだけなのは、聞こえない寝息から気付いていた。

「マルコ、私のこと、好き?」
「………ああ、好きだよい」
「本当に?」
「ああ」
「愛してる?」
「…大切な家族だと思ってる」
「そうじゃなくて。私が聞いているのはそういうことじゃないって、わかってるでしょ」

優しいマルコは私の愚かな質問に答えてくれた。声は低く、優しかった。

「マルコ」
「もう、寝ろ」

私はゆっくりと目を閉じた。彼の背中にくっついて、決して私を見ない彼にしがみついて、早く朝が来ますようにと願った。

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