マルコは、絶対に私に触らない。自然に、だけどそれは確固たる意志として、私に触れることを避けている。

小さな村での暮らしは、私達のズタズタに引き裂かれた心を十分に癒してくれた。ほとんど自暴自棄に近かった私がこうしてちゃんと呼吸が出来ているのは、もちろんマルコの支えが大きいけれど、この村の人達が温かく受け入れてくれたからである。
マルコは医者として村人から慕われているし、私も看護師としてその仕事を支えることが出来る。不自由のない暮らしだ。


「マルコ、ご飯できたよ」
「ああ、今行くよい」

二人で食べるご飯は質素だけど温かかった。ここに来るまで料理などほとんどしたことがなかったが、見様見真似でやってみると案外出来るものである。マルコは特別美味しいだとか言わないけれど、いつもちゃんと感謝の言葉をくれる。私にはそれがなんだか新鮮でくすぐったかった。
食べ終わって皿を洗おうと席を立った私を制して、彼が代わりに洗ってくれる。あの一番隊の隊長が、皿洗いなんて。くすりと笑うと、「なに笑ってんだ」と少し怒ったように咎められたが、彼の顔もどこか優し気だった。

夜、部屋はあたりまえに別々であり、別々のベッドで眠る。
だけどここ最近寝つきが悪く、ほとんど眠れない日も多かった。
……嫌な夢を見るのだ。銃声、土埃、真っ赤に染まった誰かの手のひら。
私は消した明かりをもう一度つけて、そっとマルコの部屋の扉をたたいた。

「マルコ、もう寝た?」
「……いや、まだだよい」

扉の奥から声がして、ギィと音を立てて扉は開いた。呆れた顔で私を見下ろしたマルコは、私がこれから何を頼むかすでに分かっているようだった。

「あのね、一緒に寝ていい?」
「子供みてェなこと言うな」
「でも、寝れないの」
「……ハァ、ったく好きにしろ」

ため息を吐いて、だけど断ることはせずベッドに通してくれる。
同じ布団に入りありがとうとお礼を言うと、おやすみ、とこれまた優しい返事が聞こえた。

男女が同じ布団で寝たらどうなるか。しかし何も起こらない。マルコは私を拒否することはないが、決して触れようとしない。理由は分かり切っている。

マルコは、あの夜、私を抱いたことを後悔しているのだ。

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