ロロノアは思っていたよりも呑み込みが早く、ミホークが課していた覇気の応用まであと少しというところまで来ていた。私も体が訛っていた為、覇気の会得も兼ねた簡単な手合わせを何度かやっていたが、さすがの賞金首というだけはあり私自身も生傷が絶えない生活となってしまった。
彼は私が女だからかかなりやりづらそうにはしていたが、決して手加減をしているわけではないようだった。ガサツな風貌だが、根は優しく真面目な青年なのだろう。しかしまあ詰めが甘いのは確かであり、私は決してその甘さを見逃さずに、最終的に一本取るのはほとんど私であった。彼が私に最後の最後で勝利を許してしまう理由は分からなくも無かったが、彼のその無意識であろういらぬ気遣いは私を少々苛立たせていた。

夜、自分の傷の手当てをしていると、たまたまミホークが通りがかった。普段であれば彼に飛びつくほど嬉しい邂逅であるが、怪我の手当だなんて女性らしからぬ格好悪い姿を見られたことへの羞恥心で、私はその場から立ち上がったものの動かずに、へへへと愛想笑いをした。


「あいつとの手合わせでついた傷か」
「はい…。油断していたわけではないのですが…、彼は強いですね」


少し悔しく思いつつもそう呟いた。ミホークは何故か私の方へやってきて、私が手にしていた包帯を奪い取った。何事かと見上げると、手当してやる、と言って私を近くの椅子に再度座らせた。


「ええっ、そんな、ミホークさんの手を煩わせるなんて」
「俺があいつの面倒を見ろと言ったんだ。怪我の手当くらいは手伝うべきだろう」
「でも…」
「いいから、大人しくしてろ」


彼はテキパキと私の腕についた傷の手当をしはじめた。誰かに手当をしてもらうなんて久しぶりで、しかもそれが長年憧れていた想い人であるということで、頬が熱くなるのを感じた。
近くなった距離に緊張してしまい、私はそれを誤魔化すように話し始めた。


「こんな、怪我ばかりして、女らしくないですよね。すいません」
「…何故謝る」
「だって、ミホークさんだって、好かれるならおしとやかな女の人の方がいいのかなって…。私は決して弱くはないけど、強いわけじゃない。ただ女で運が良かったってだけで、階級に見合った実力があるわけでもない、半端者です」


ロロノアの強さは身をもって体感をした。しかし、ルーキーの海賊相手にこんな怪我だらけになる私を見て、ミホークは幻滅したのではないだろうか。覇気の指導をするだなんて大口をたたいてこの程度だ。女らしくもない、しかし男のように強いわけでもない中途半端な自分が、なんだか無性に恥ずかしく思えてきてしまった。
海軍時代からあった自分に対するコンプレックスが、突然開花したように私を不安でいっぱいにさせる。昔から、時々箍が外れたように情緒不安定になることが時折あった。自分のメンタルすらコントロールできないことがまた、自己肯定感の低下を加速させていた。

しかしミホークは、そんな私の言葉を気にもせずに手当を続けた。時折触れる指先は、少し冷たくて心地よかった。


「お前の強さに性別は関係ないだろう。自分の身を自分で守れるだけの強さがあるということは、恥ずべきことではない。少なくとも、俺はお前が半端者だとは思わん」


淡々とそう話すミホーク。私はなんだか泣きそうになってしまって、潤んだ瞳を見られるのが恥ずかしくて慌てて俯いた。好きな人に、自分を認めてもらえるということが、こんなにも自分を安心させるだなんて知らなかった。

手当が終わり、お礼を言うと頭を撫でられた。急なことに驚いて思わず顔を見上げると、彼は優しく微笑んでいた。


「次にまた怪我をしたら、俺を呼べ。幾らでも手当してやろう」


彼の微笑みの理由は、優しさの理由は、一体何だというのだろう。部屋を去って行ったミホークの背中を見つめながら、私の心臓はうるさく高鳴り続けていた。





×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -