痛む体に鞭を打って、夜中こっそりと足を忍ばせる。
恐らく、この部屋だ。私はそっと扉を開けて部屋に入り込んだ。ベッドに近づいたところで、後ろから人の気配がして振り返ると、喉元には小さなナイフが突きつけられていた。


「あ…」
「なるほど、奇襲か?」
「違いますよ!」


そこにいたのはミホークだった。まさか起きているとは思わなかった為驚いて後ろに少し下がる。ミホークも本気で刃物を向けていたわけではなかったようで、ため息を吐いてすぐに手を下した。そして近くのソファに腰かけて、やや苛立ち交じりに私に話しかけた。


「一体何の用だ。今何時だと思っている」
「ミホーク様と一緒に添い寝させて頂こうかと思いまして」
「寝ぼけたことを言うな」
「確かに眠いですけど、私は至って本気です!」


ゴミでも見るような目で私を見つめる彼は、それでもカッコよくてうっとりと見つめ返すと今度は目を反らされてしまった。


「俺はお前に惚れられるようなことをした覚えはないのだが」
「覚えていませんか?」
「何をだ」
「私の故郷を助けてくれたことです」


ミホークは全く知らないという顔をしていた。
彼が意図して私の街を助けてくれたわけではないことは知っている。かつて彼は、私が住んでいた島に、一度だけ彼が訪れたことがあるのだ。

その頃私はまだ海軍には入っておらず、小さな酒場で働く何の取柄もない少女であった。ミホークが島を訪れる前から悪評高い海賊が街を占拠しており、人々はみな私も含めて海賊に怯えながら暮らしていた。
そこにたまたま現れたのが、ミホークだった。彼は私の酒場へやってきて周りにいる海賊など目もくれずに酒を注文していた。そんな不遜な態度が気に障った海賊たちが一斉に彼に向かって喧嘩を吹きかけたが、ものの見事に返り討ちにあっていた。
そして残りの海賊たちも一網打尽にし、そしてそのままあっさり海軍に身柄を引き渡していた。
長いことあの海賊達に苦しめられていた私たちにとって、まごうことなき救世主だった。
その圧倒的な強さに私は見惚れて、そして彼が王下七武海の一人だということを知り、再び出会うために海軍を目指したのだった。

その話をしたが、ミホークはいまいちピンときていないようだった。


「ふむ。まあ、覚えてはいないがそんな街があったような気もするな」
「ミホーク様が覚えていなくても、私はあの日のこと鮮明に覚えています!本当にかっこよかったんです。感謝もしています。その恩返しがしたいんです」
「…その恩返しが、夜這いということか」
「夜這いだなんてそんな!いやもちろんあわよくばそういう展開になることを期待していないわけではないですが……!」


しかし彼は私の話を無視して、私を追い払うように手をシッシッと振りながらベッドに腰かけた。


「とりあえず、もう夜も遅い、帰ってくれ。俺は一人で静かに寝たい」
「でも……」
「まだしばらくこの城にいるんだろう。無理に追い出すことはしない代わりに、静かに寝させてくれ」


面倒くさそうにそういう言われたが、その言葉はつまり暫くの間ここにいても良いという意味で受け取っても問題ないということだろう。


「じゃあ今日のところは帰ります。ここにいる間にミホーク様ともっと仲良くなれるように頑張りますね!」
「俺はお前と仲良くする気はないぞ」
「大丈夫です!私が頑張りますから!おやすみなさいミホーク様!」


今日何度目かのため息を吐いたミホークは、私が部屋から帰る間際に私のことを呼び止めた。振り返ると、彼はまだ面倒そうな顔をしたままだった。


「お前」
「はい、なんでしょうミホーク様!」
「俺の名前に様を付けて呼ぶのはやめろ。仰々しくて敵わん」
「それじゃあ……、ミホークさん」
「様じゃなければなんでもいい。早く帰れ」
「はい、ミホークさん!おやすみなさい!」


もう一度おやすみを言うと彼はまた手でシッシッと払うように私を見送った。



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -