「お前も、一緒にくるか?」


城を出ようとしていたミホークさんは、そう唐突に私に尋ねた。
用事があるから、といって港町へ出かけるところだったのだが急な誘いに私はびっくりした。


「え…、いいんですか?」
「ずっとここにいるのもそろそろ飽きただろう」
「じゃあ、私急いで着替えてきます」
「ああ」


私は急いで自分の部屋(にしている)に戻って、クローゼットの中にある少ない服から外に出てもおかしくないような服を選んで身に付けた。髪の毛は、寝ぐせもそんなについていなかったので手櫛で整えるだけにした。
「お待たせしました」と戻ると、行くぞ、と一言だけ言ってミホークさんは歩き出した。

怪我が治ってから大分経つ。ミホークさんは私が何処から来たのかだとかそういった詮索は初めて言葉を交わした日以来一切しなかった。私もそんな優しさに甘えて、なんとなく日々を過ごしていた。

城の外へミホークさんと出るのは初めてだった。ミホークさんには禁止されていたが、何回かこっそりと白の外に出て周りを散歩したことはある。
しかし、普段一人出る時と違い、いつもなら周りをうろついているミホークさんがヒヒと呼ぶ生物がじっとこちらを見つめて身動きを取らないのである。
よく見ると、みんなミホークさんを注視していた。…ミホークさんを恐れているようにも見えた。
どん、と軽い衝撃があった。周りを見過ぎていて前を見ていなかった為、先を歩いていたはずのミホークさんが立ち止まっていて、私はそれに気付かずに背中にぶつかってたのだった。


「…」
「わ、ご、ごめんなさい」


呆れたように私を振り向くミホークさんに苦笑いをした。
すると今度は顔をずい、と近付けられて私はびっくりする。


「お前…」
「?」
「外に出たこと、あるな」
「…」


ちょっと怒ったようなその顔に私は少し怯む。気付かれるとは、思わなかった。


「ご、ごめんさい…」
「危険だから出るなとあれほど言っただろう」
「…でも、ミホークさんが言うほど、ヒヒ達は怖くなかったですよ?」


ミホークさんには、ヒューマンドリルという狂暴な猿が城の周りには多くいて危険だから出るなと言われていた。
しかし、ヒヒ達はミホークさんが言う程怖い生物だとは思わなかった。
初めて外に出たとき、確かに初めて見る生物であり目付きは悪くて怖かったのだが、近付くと向こうもこっちに興味を示してくれたみたいでそっと触ると気持ち良さそうに目を閉じたのだ。その子は小さな子供だったが、その後から外に出るたびその小さなヒヒと遊ぶようになって、いつの間にかその子供の母親や、周りのヒヒ達との交流が生まれたのだった。

そのことを話すと、ミホークさんは驚いたように目を見開いて、それから溜息を吐いた。


「まさか人間に懐くとは…」
「珍しいことなんですか?」
「ここまで凶暴になったヒヒとしては珍しい。……勝手に外に出ていたのは感心しないが、まあ無事だったならいい」


そういってミホークさんは再び歩き始めた。私はその後をついていく。


「なんで私がこっそり出ていたってわかったんですか?」
「…ヒヒ達がお前の事を心配そうに見ていたからだ」
「心配そうに?」
「あいつらはおれを恐れている。だから一緒にいて大丈夫かと心配になったのだろう」


ちらりと隠れているヒヒの方を見ると確かに私の事を心配そうに見ていた。安心させるために手を振ると驚いたように私を見ていた。それから少しして手を振り返してくれたので、どうやらわかってくれたようだ。


「…なぎさは」
「なんですか?」
「やはり、不思議だな」
「?」


どういうことですか、と聞いてみたけどミホークさんは答えてくれなかった。

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