私達の前に舞台へ出て行った大きな男の人が、歓声の中倒れたのが見えた。口からこぼれる血。後ろで同じように鎖に縛られている人達の声が聞こえる。「舌を噛んだのか」「俺らも、そうした方がいいのかもな…」
ケイミーちゃんは大きな水槽に入れられてその様子を真っ青になって見つめている。私は、その冷たい水槽に寄り添うようにして恐怖をいくらか誤魔化そうとした。
助けに来て、誰か。お願い。頭の中で強く願う、彼の姿。この島のどこかにいるはずのローが、もし私に気付いてくれたら。私を見つけ出してくれたなら。


「おい、人魚の準備を急げ!すぐ出すぞ!」


私ははっと顔を上げる。どけっ、と私は床にはじきとばされて、ケイミーちゃんの入った水槽は布をかけられて舞台上へと動かされていった。


「ケイミーちゃんっ!」
「お前の出番はまだだって、んな焦らなくたって誰かが買ってくれるさ」


にやにやと水槽を押す男が私を見て言った。ケイミーちゃんのシルエットに観客がどよめくのが聞こえる。そして、布が外された瞬間、人々の歓声はさらに大きくなった。
さっきよりもさらに青ざめているケイミーちゃんが見えて、そしてさっき舌を噛んだ大男の姿が思い浮かんだ。もし、ケイミーちゃんも同じ事を考えていたら……。私はぞっとして、そして近くにピエロの格好をした人達もいなかったため、私はばっと舞台へと走り出て行った。


「人魚のォケイミー!!!」
「本物だ!若い人魚だ!」
「ん?隣にいるあの女は何だ?」
「一緒に売るのか?」


私は水槽越しにケイミーちゃんと手を合わせる。客席から聞こえてくる無遠慮な歓声が怖い。舞台にいた男は盛大に舌打ちをして、私に耳打ちするように「なんで出てきやがっててめぇ」と凄んでくる。
そうこうするうちに始まるオークション。ケイミーちゃんが誰かを見つけたようでぱっと顔が明るくなった。その目線をたどると、そこにはチョッパーや他にも麦わらの一味の姿が見えた。ケイミーちゃんを助ける為に駆けつけてきたのだろう。ルフィの姿は見えないが、これでどうにかなるのかもしれない。どうやら外の声は全く聞こえない様子のケイミーちゃんと顔を見合わせて、ようやく私達は安堵の表情を見せた。

少しだけ余裕が出てきて、恐怖は消えないながらも観客席を良く見ると、見慣れた白い影が目に映った。

あれは………ベポ………?

ということは……。私の心臓はどきんと高鳴る。ベポの隣に立ちすくんで私をまっすぐに見る、彼の姿が、そこにあった。


「ロー…さん………!」
「なぎさ!」


呟いた私の言葉にかぶせるように、ローが私の名を大きな声で呼んだ。この歓声の中での大声なんて、誰も注目しなかったけど、ちゃんと聞こえた。ローが、私の名前を呼ぶ声は、私に届いた。


「え、あれ…なぎさか…!?」
「うそだろ、なんでなぎさがあんなとこにいるんだよ!」
「キャプテン!なぎさがいる!」


一番助けて欲しい時に、一番会いたい人が来てくれるなんて。私は足の力が抜けたように床にへたりこんだ。客の一人が、何か叫んで会場がどよめいた。
だけど私に耳には何も届かない。ただ、ローの姿と、彼の声だけが、私の頭の中を占めていた。

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