「あれ、ミホークさん。もっと遅いと思ってたのに…。おかえりなさい」
「…ただいま。不思議なものだな、おかえり言う誰かがいるというのは」


ミホークさんは私が思っていたよりも随分と早く帰って来た。といっても、ここには時計などないから今が何時などとは分からないのだが。
私は一人の間することもなくひたすら眠っていた。眠っては起き、起きては眠る。ずっとその調子だったため今は目がとても冴えてしまっている。


「何処へ行かれてたんですか?」
「お前の服とかを調達しに行って来た」
「え…」
「サイズや好みは分からないから、とりあえず数着だけ買ってきた。動けるようになったら、また買いにいけばいい」


この島のちょうど反対側に小さな港町があるらしい。そこまでわざわざ買いに行ってくれたという。出会ったばかりの親切をどう受け取るのが正しいか分からず、申し訳なさでいっぱいになる。


「ごめんなさい、わざわざそんなことまで…」
「おれが勝手に行っただけだ。…気に入らなかったら着なくても構わん」
「えっ、そんなことは絶対ないです。…ありがとうございます」


ミホークさんは紙袋のままベッドのわきに服類を置いて、そして飯を作るといって部屋を出て行った。
なんだか、至れり尽せりである。恩返しをしたいけれど、この怪我じゃあ何もできない。私は再びため息をつき、ミホークさんが戻ってくる前にシャワーを済ませようと杖を取ってよろよろとベッドを下りた。

シャワーを浴びて服を着替えるのに手古摺り、漸く脱衣所から出るとミホークさんと鉢合わせた。松葉杖のような杖を使っているとはいえ、やっぱり関節など体のあちこちが痛み、歩くのはつらい。


「…何処に行ったのかと思っていた」
「お風呂、頂いてました」


そう言ってぺこりとお辞儀をする。どうやら姿が見えなかったから探してくれていたらしい。飯だ、と先程の部屋へと戻ろうとするミホークさんの後を私は追った。


「………え?」
「そんな速度じゃ、明日になっても部屋に着かん」


急に身体が宙に浮いたかと思うと、ミホークさんに横抱きにされていた。歩きづらいの見かねたのだろう。私が大丈夫と言っても彼は下ろしてくれそうになかった。抱かれた体は痛くはなかったが、存外強い力で抑えられていて抵抗するなんて以ての外だった。
結局そのまま大人しく部屋まで戻り、ベッドに優しく下ろされる。


「ごめんなさい、わざわざ運ばせてしまって…」
「怪我人を気遣うのは当たり前だろう」


そういってミホークさんはご飯が乗ったお盆を渡し、二人でぽつりぽつりと会話をしながら食事をする。
お風呂上りだからか、先程彼と密着したせいか、体がずっと火照ったような気持ちだった。
食べ終わって幾分かたった後、ミホークさんは言った。


「お前が風呂に入っていた時…、いると思っていた場所にお前がいなくて、城中を捜そうかと思った」
「ごめんなさい、何も言わずに行っちゃって…」
「いや、それは構わんのだが。…結局すぐ見つかったが、最初に来た時と同じように突然消えてしまったのかと考えた」


ミホークさんの表情から感情は読み取れなかった。
来た時と同じように…、それはつまり私が元の世界に戻ったのだと、ここから消えてしまったのだと。ミホークさんの表情からは相変わらず感情が読み取り辛かった。しかし、すぐに彼の顔は綻んで微笑が浮かんだ。


「全く…お前は本当に不思議な娘だな」
「え?」
「こんな些細な事で心配している自分がいることに…驚きだ」


と小さく笑いながらそういうミホークさん。心配している、その言葉が胸にくすぐったい感情を抱かせる。


「今後は部屋から動きたい時はおれに言え。運んでやる」
「そんな、そんなこと頼めませんよ…!」
「気にするな。怪我も悪化するし、歩くのに痛みが無くなるまではその方が良い」
「でも…」


渋る私に、ミホークさんは優しく笑いながら言った。


「おれがしたいからそう言ってるんだ。遠慮なく頼れ」


まるで口説き文句みたいだな。また更に少し体温が上昇したような気がして、色づいた頬を隠すように私は頷いた。

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