ゆっくりと目を開けるとあたりは白く明るかった。朝…だ。

身体を起こすのはやっぱり少し痛みが走るが、しかし昨日の夜中の様なけだるさは無くなっていた。薬が、効いたのかな…。その瞬間、夜中の出来事を思い出し私は途端赤面した。
いや、いや。あれは私に薬を飲ませるためのものであって、深い意味は一かけらもない。ただの医療行為だから、意識する必要もないし、気にしてしまったら私の為を思ってしてくれたミホークさんに対しても失礼である。
しかしそうは分かっていても思い出すとやっぱり顔が熱くなる。
誰かと唇を重ねた経験等今まで一度もない。そもそも、あれを口付けとしてカウントするのはいかがなものか。
気が付くと部屋にミホークさんが入ってきていた。顔を見ることが出来ず、彼の足元に視線を逃がした。


「熱は、下がったようだな」
「あ……おはよう、ございます」
「飯を持ってきた。食えるのであれば口にしろ。気分はどうだ?」
「楽になりました。身体はまだ痛むけど…」
「そうか。痛みは仕方ない。あと一週間くらいは起き上がるのに痛みを伴うだろう」


そういってミホークさんはテキパキと私の包帯を替えてくれる。
相変わらず顔は見れないが、彼に触れられること自体には慣れてきていた。鮮やかな手つきに私は感心して聞いてみる。


「手際が良いですね…手当」
「まあ、自分の怪我は自分で手当てをするしな」
「そうなんですね」


ミホークさんは昨日の夜の事を特に気にしている素振りは無さそうだ。
年齢が幾つかは知らないが、私よりも年上だということは分かる。人生経験の差は大きい。きっと昨夜のようなことは気にするほども無いことなのだろう。


「くくッ…」
「?」


手当が終わり、頑なに目を合わせない私に対して、ミホークさんはいきなり笑いだした。


「いや、すまない…。笑い事じゃないのだな…お前にとっては」
「…?」


そんなに変な顔をしていたのだろうか。それとも顔に何か付いていたとか。鏡が無いので確認できないため手でぺたぺたと頬などを触ってみるが何かが付いている感じはしない。そんな私を見てミホークさんはまた笑う


「昨晩…まあ反応見る限り覚えているみたいだが…」
「…え、えっと」
「悪かった。そこまで挙動不審になるほど気にするとは思わなかった。確かに、妙齢の女性にあのやり方まずかったかもしれない」
「い、いや、私のためだって分かってるんで。…気にはしますが、あの、嫌だったとかじゃ全然ないんで、本当に…」


謝られると逆にこちらがいたたまれなくなる。ミホークさんは私が苦しそうにしていたからああしてくれたわけで、私としては気にはするがそれは嫌だとかそういう気持ちで気にしているわけではないのだ。


「そうか」
「はい…。多分、もう少し慣れたら目も合わせられると思いますし」
「くくっ…、分かった。それならいい」


ミホークさんは再び笑って、そして私の頭を片手でぽんと叩くように軽く撫でて立ち上がった。
いきなり撫でられて、私はびっくりして一瞬固まる。頬が熱くなった気がした。


「おれは用があるからここに戻ってくるのは夕方になると思う。これを置いておくから、何かあったらすぐ呼んでくれて構わない。…使い方は分かるか?」
「あ、はい…。分かる気がします」
「なら良い。安静にしていろ。間違っても城の外へは出るな、いいな」
「わかりました」


近くのテーブルに小さな電伝虫を置いてミホークさん出て行った。

昨日の夜のキスに比べたら確かに大したことはないが、しかし頭を撫でられたのは予想外だった。だって昨日の夜のあれはただの医療行為、でもさっきのあれはミホークさんの優しさが含まれたものだったから。
溜息を吐いて私はミホークさんが持ってきてくれたパンに口をつけた。今日は一日一人なのかと思うと、先程まで近くにいた温もりが恋しくなるような気がした。

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