12


港に近付くにつれ、人の数は多くなって行った。
手を繋いでいなかったら、簡単にはぐれてしまいそうなほどの人込みだったから、少しだけ手を繋いでいることに対する羞恥心は薄くなったけど、火照った頬はなかなか戻りそうになかった。

港に着き、さらにそこから海岸へと向かう。海岸にも、多くの人がいた。ほとんどが男女の二人組で、恋人同士の甘い雰囲気が波打ち際にあふれていた。どの女の人も、髪や手にあの白い花をつけていた。何か、意味があるのかもしれない、と思った。
前を歩くミホークさんはこちらを振り返ることはなかった。辺りはほとんど真っ暗に近い。街灯やそれに値するものは近くになく、月明かりだけが辺りを照らしていて、なんだか幻想的だった。カップルがここに来たくなる訳も、なんとなくわかる気がした。


「真っ暗、ですね」
「ああ」


ようやく立ち止まったミホークさんに私はそう言った。手は、いつの間にか離されていた。海岸の端の方だからか、辺りに人は少なかった。


「なんで、女の人はみんなあの白い花をつけてるんですか?」
「…直に分かる」


ミホークさんは短く答えた。直に分かるって…?疑問に想っていると、海岸からふわりと小さな明かりが浮かび上がった。何だろうと思って近づこうとすると、あちらこちらから小さな明かりが現れて、海岸を覆っていった。私はびっくりして辺りを見回していると、自分の顔のすぐ横にも明かりが灯っていることに気付いた。


「こ、これ…」
「この時期は、ここらにホタルが多く来るらしい」
「ホタル?」
「ここのホタルは、さっき買ったあの白い花の蜜を吸うことで発光する。海岸には予め花を浮かべていたから、そこにホタルが止まって発光しているのだろう」
「じゃあ、今私のこの花の中にも…」
「昔、夜漁に出た船は、この明かりのおかげで方角を見失わずにいられたらしい。そこから、この祭りでは白い花を海岸に浮かべたり髪飾りにしたりする習慣が出来たんだと、さっきの宿屋の者に聞いた」


ミホークさんは、淡々とそう説明した。私は、そっと髪飾りを取って蛍の止まった花を見てみた。さっきまでは発色が悪い花だと思っていたが、光が入ると柔らかな白になってとても綺麗だった。
手に持って眺めていたら、ふっとそれをミホークさんに奪われ、どうしたのかと思っていると、再び花を髪の毛につけてくれた。


「…綺麗ですね」
「ああ、綺麗だ」


ミホークさんは私の目を見つめてそう言った。まるで、私に言っているみたい…。また、頬が熱くなっていく。思わず目を逸らすと、ミホークさんは私の頬に手を添えた。


「お前に、言ったんだ」
「え?」
「なぎさ」


ゆっくりと顔を上げると、ミホークさんと目が合って、視線を逸らすことが出来なくなった。胸が、苦しくなる。でも、それは昼間ミホークさんとはぐれたときに感じた苦しさとは、違うものだった。苦しくて、胸が締め付けられる、切ない感情。


気が付いたら、私の唇はミホークさんの唇と重なっていた。


目を閉じてしまっていたから、ミホークさんがどんな表情をしていたか分からなかった。普段であれば、私はこの状況に慌てふためいて、こんな風に落ち付いていられるはずはないのに、何故だかこの時、私はこうなることが必然だと分かっていた気がした。再び目を開けると、ミホークさんはいつもと変わらない表情で、私を優しく見つめていた。

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