12


夜、廊下でばったりとマルコに会った。彼は仕事があるとかでその日はほとんど部屋を空けていた。朝ぶりに彼と顔を合わせることが出来て、私は少しうれしい気持ちだった。


「マルコさん」
「お前、こんな時間に何処に行くんだ?」


怪訝そうな顔だった。確かにもう既に夜の10時を回っている。私がこんな夜遅くに部屋の外にいるのは珍しいことだった。
実は、と話し出す。昼間にクルーから、部屋で小規模の宴をするから遊びに来ないか、と誘われていたのだ。今までも船内では規模の大小も含めてたくさん宴は開催されていたが、私はそのどれも参加したことはなかった。お酒は匂いからしてあまり好きになれそうになかったし、どんちゃん騒ぎをするクルーのノリに入れるほど私は陽気な性格でもなかったからだ。
だから、わざわざ私に気を遣ってあまり人数の多くない集まりに誘ってくれたのだろう。その心遣いが嬉しかったから、彼らが集まる部屋へと向かっていたのだった。


「へぇ……。じゃあ、おれも行くか」
「マルコさんも?」
「あぁ。何か都合悪いか?」
「いいえ。マルコさんも来てくれるなら、嬉しいです」


マルコはなんだかいつもと少し違った様子に見えたけど、彼と一緒にいる時間が増えるのは純粋に嬉しいことだった。そのまま二人で宴をしている部屋へと向かった。
扉を開けると、そこには思っていたよりも多い人数が集まっていた。私の姿を見て歓迎してくれ、しかしその後ろにマルコもいたことは想定外だったようで微妙な歓声が上がっていた。


「ヒナ!本当に来たのか!」
「おい、マルコも呼んだの誰なんだ」
「なんだ、おれがいちゃまずいのかい」
「め、滅相も無い!」


マルコが来たことにびっくりしていたクルーは彼に睨まれて慌てて歓迎の形をとっていた。私はおいでおいでと呼んでくれたクルーのもとへと行って床に座り込んだ。「保護者もついてきたんだな」と笑いながら言われ飲み物を渡されて、乾杯だとグラスをぶつかり合わせた。
しかし一口も飲む前にそのグラスをかっさらわれてしまう。宙に浮かんだグラスの先を追うと、マルコが不機嫌そうに私のグラスを持ち上げてそして先に口をつけてしまっていた。


「これ酒だろ。ヒナに何飲ませようとしてんだ」
「何固いこと言ってんだよマルコ!いいじゃねぇか、ヒナも仲間なんだし」
「こいつに酒はまだ早い。ほら、お前はこれ飲んどけ」


マルコは別のグラスを私に渡してきた。口をつけると、甘いぶどうジュースだった。美味しい、と呟くと私に笑顔を見せて、そして私に最初にグラスを渡したクルーに対しお説教を始めてしまった。
宴の雰囲気はとても明るく、私は積極的に会話に参加することは無かったがそれでも騒いでふざけるクルーを見ていると心から楽しい気持ちになれた。
マルコはずっと隣にいるわけではないが、それでも私が視界に入る範囲内にずっといてくれた。ふざけ半分で私にお酒を渡そうとするクルーを片っ端から遠ざけてくれていて、それ自体が一つのコントのようになっていて笑いを誘っていた。私自身、彼に守られているような気持ちになれてまんざらでもなかった。


「相変わらず、過保護だな」
「あ、えっと…」


私の後ろにすっと立ってそう覗き込みながら言ってきたのは、着物を着たきれいな男の人だった。イゾウという名でマルコと同じく隊長と呼ばれているのを見たことがある。彼の名はなんだか馴染み深い名前のように感じていた。彼はマルコへと視線を移し呼びかけた。


「マルコ!今日のこの場は俺が仕切ってるんだ。お前が心配するようなことはハナから誰も考えちゃいねぇよ」
「しかしお前、ヒナに酒飲ませるのは…」
「別にいいだろう、酒の一杯や二杯。なあ、ヒナ?」


イゾウは私の肩をぐいっと抱いてそう答える。突然近くなった距離に思わず赤面してしまった私を見て可笑しそうに笑うイゾウ。そしてまた不機嫌そうに顔を歪ませるマルコ。


「お前、離れろよい!」
「悪い悪い、父親の前で娘にちょっかい出すなんて愚行だったな」


イゾウはどうやらもう既にかなり酔いが回っているように見えた。普段からこんなにスキンシップを取るようなタイプではなかったはずである。マルコは慌てたように私の腕を掴んで引っ張りイゾウから引き離した。それがツボに入ったらしく、周りにいたクルーもまた笑っていた。


「この船には親父が二人もいるのか!おもしれぇ!」
「誰が親父だよい!」
「ヒナ!お前にゃ父親二人と兄貴がたくさんいて贅沢もんだなァ」


この船に乗っているクルーはみんな家族であると、マルコから聞いたことがある。兄貴と言ってくれたクルー、ここにいることを快く受け入れてくれた親父さんと過保護なマルコ。記憶が戻る兆しはなかったが、こんな楽しい毎日にこれ以上必要なものなんてないように思えた。




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