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次の日からマルコは時間が空くと私の護身術の練習に付き合ってくれた。
マルコ曰くそもそも私は体がなっていないらしく、具体的な技よりも筋トレだとかそういった基礎的な体作りから指導された。確かに私はお世辞にも身体能力が高いと言えないし、一部のクルーからはヒョロガリとからかわれるほど貧相な体つきだった。


「毎日こんなことしてたら、私ムキムキになっちゃう」
「そんな簡単にはならねぇよい」
「こんなに胸もぺったんこで、更に筋肉までついたら、男の子だと思われるかも…」
「何馬鹿なこと言ってんだ」


かろうじて長い髪だけが、私が女であることを証明してくれるように思えた。マルコは声に出して笑いながら私の頭を撫でる。


「誰がこんな可愛いやつを男だって見間違うんだよい」


マルコの言葉は、時に爆弾のように私の心臓を驚かせる。可愛い。その言葉は幾度か彼の口から聞いたことがあるが、彼にとって何でもないその誉め言葉は私にとっては超特大のダイナマイトのように心をかき乱す。
赤くなってしまった顔を隠すかのように筋トレにいそしむと、私を揺さぶった当の本人は「お、頑張るなぁ」と呑気に笑っていた。


ある日いつものようにマルコに護身術を習っていた。その日は受け身の取り方だとか、前みたいにいきなり腕を掴まれたときの対処の仕方なんかを教えてもらっていた。
実際にマルコに腕を掴まれたりして、最初は近い距離にドキドキしていたが、そのうちに「これは訓練だから」と自分を納得させて平常心で練習できるようになってきたところだった。


「あれ、お前ら何イチャついてんの?」


サッチがやってきてそうからかってきた。ようやく落ち着いた心臓がまたうるさくなってしまう。冗談の言葉だってわかるけど、確かに体は密着するし、見方によってはイチャついているように見えるのかも…。それに、教えてもらってる立場だってことは十分承知だけど、距離が近くなること自体は嫌じゃない。それどころか、ちょっとだけ嬉しかったりする。そんな下心を見透かされたような気持ちになった。
エースもやってきて、「おれも手伝う!」と割り込んできたがマルコに止められていた。


「ヒナの相手は俺限定だ」
「相変わらず過保護だなぁ」
「当たり前だろい」


サッチが相変わらずからかってくるし、エースも断られたことに腹が立ったのかなんやかんやとマルコに突っかかるので、私は少し怒ってマルコの腕を引っ張った。


「ちゃんと真面目に教わってるの!邪魔しないで!」


私が怒った姿を見たのが始めてだったからか、サッチもエースも驚いたように目を大きくして「ごめんな」と謝ってくれた。エースに至っては傍から見てもわかるくらい落ち込んでいた。
大きい声を出してしまったのは、からかわれたのが嫌だったからじゃなくて、マルコとの時間を邪魔されて、しかも下心まで見透かされたのではないないかという焦りからだと分かっていたから、私はなんだかばつが悪くて困ってしまった。
そんな私を見てマルコは「大丈夫か?」と聞いてくれた。頷くと、マルコは二人に対してお説教を始めたので、長くなりそうなのが分かり私はため息を吐いてその場を少し離れることにした。


マルコは過保護である。それはここに来てからずっとそうで、彼の優しさは心地のよさと切ない気持ちで私を翻弄する。
淡い恋心のような気持ちを自覚しつつはある。だけど、それを素直に認めてしまってもいいものなのか躊躇ってしまう。自分の名前すら思い出せないのに、さらに厄介な感情を抱いてしまうのは、今の自分にとって得策とは到底思えなかった。

お説教が終わったマルコがこちらにやってくる。「あいつらにはちゃんと言っておいたから、気にすんな」と声をかけてくれる。


「気にしてないですよ」
「邪魔されるのは迷惑だからな。続き、今日はやめとくか?」
「ううん、やりたいです!だって、またいつ敵が来るかもわからないし…」
「いつ来たって、次はちゃんと守るよい」


海をバックにしてそういう彼はとても眩しく見えた。彼にとって私はただのか弱い小さな雛鳥なのかもしれない。それでもいいや、と今は思う。彼の近くにいることが出来る時間を、存分に満喫したい。
 


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