10


翌朝、目覚めるとマルコの姿は無かった。昨晩はよく眠ることが出来た。もしかしたらここに来て以来一番ぐっすりと眠れたような気もした。マルコの体温は心地よくて、私を安心させた。
着替えて部屋を出ると、すれ違うクルーが私の頬を見て口々に気遣いの声をかけてくれた。こんなにも大勢から心配されるとなんだか嬉しいような気恥しいような気持になり、小走りでマルコのもとへと向かった。


「マルコさん!」
「おう、起きたのかい。飯持ってこうかと思ってたが、もう体は大丈夫か?」


食堂の近くで彼を見つけることが出来た。柔らかく笑ってそう言ってくれるマルコに心がきゅんとする。もう大丈夫だと伝えると「無理はするなよ」と頭を撫でてくれた。
二人で朝ごはんを食べながら、私はあるお願いをしてみる。


「あの、出来たらで良いんですけど。…私に護身術を教えてくれませんか?」
「別に構いやしねぇが…。いきなりどうした?」
「昨日みたいなことがまたあった時に、少しでも自分の身は自分で守れた方が良いかな、と…」


そう言うとマルコは納得したように頷いた。昨日は私は隠れることしかできず、見つかった後はほとんど抵抗も出来ずに殴られてしまった。誰かが助けに来るまで敵のなすがままというのはさすがに命がもたないのではないかと不安に思ったのだ。この船は海賊船で、いつまた昨日のようなことが起こるか分からない。


「心配しなくても、次は絶対守ってやるつもりだが……。まあそれでお前の気が済むなら、幾らでも付き合うよい」


守ってやる、と何の躊躇いも無く言われて、顔が少し熱くなる。本当に、マルコは何の気なしに言った言葉だと分かってはいるが、どうしても心が反応してしまう。
ありがとう、と伝えたところで近くにいた別のクルー達が「俺達も手伝うぞ!」と名乗り出てきた。


「皆さんありがとうございます」
「馬鹿。こいつらはただの下心だ」


素直にお礼を言うとマルコはそう制した。下心?と首をかしげるとため息を吐かれた。


「お前ら、ヒナに触りたいだけだろい。ったく、しばらく上陸してないから見境がねぇな」


聞くと、前の島を出たのがもう三週間以上前らしい。この船には私とナース以外の女性は乗っていない。ナース達に手を出すことはこの船では御法度らしく、そんなことをしたら親父さんに文字通り海に沈められるとのことで、必然的に航海中は禁欲生活となり女性に飢えたクルーが多いとのことだった。
私は困ったように愛想笑いをした。まあこんな貧相な私でも生物学上は女であり、とにかく女ならなんでも良いというレベルにまで飢えたクルーからしたら護身術の訓練は体のいい口実に見えたようだ。


「私なんかじゃ、皆さん何も楽しくないと思いますけどね」
「お前は本当に、もう少し危機感を持てよい。襲われてからじゃ遅ぇぞ」


そう言われるがいまいちピンと来なくて、大袈裟ですよと笑って返すとマルコはまたため息を吐いた。


「はぁ……。まあ、おれがちゃんと見張るしかねぇな」


過保護だなあとは思いつつも、こうやって気にかけてもらえることが嬉しくてニコニコしていたら「呑気過ぎる」と小言を言われてしまい私は肩を竦めてすいませんと謝った。

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