09


その夜、私はベッドの中で蹲っていた。殴られた頬もそのほかの傷も、ほとんど痛まなかったが、何故だか息苦しかった。
船内から響く様々な音が気になってしょうがない。夜とは言えども不寝番の為に起きているクルーもいるし、まだ昼間の戦闘の興奮が冷めやまずに酒盛りをしている部屋もある。これくらいの音はいつものことである。いつも通りなはずなのに、少しでも大きな音が鳴る度に体が勝手にビクリと反応してしまう。

マルコはまだ部屋に戻って来ない。彼は比較的夜は部屋にいて私の話相手になってくれることが多かった。心細い今日の夜にこそ、一緒にいてくれたらよかったのに…と少し恨んだところで、部屋の前の廊下から大きな足音が聞こえた。
体が無意識のうちに驚いて揺れる。心拍数が上がる。ガチャリ、と大きな音が部屋に響いて扉が開いた。


「……何をそんなビビってんだ」
「マルコ、さん」


相当青ざめた表情で私は部屋に戻ってきたマルコを見ていたらしい。扉の前にいたのがマルコだと分かり、私はほっとため息を吐いた。心臓が元に戻っていく。
時刻はほとんど日付が変わる頃だった。マルコは今日襲ってきた敵船の残党の始末に行っていたらしい。


「もう寝たかと思ってたよい」
「眠くないんです」
「傷が痛むのか?」


マルコはそう言って私のベッドに腰かけて私の頬をそっと触った。なんだか恥ずかしくなり、目を反らす。頬は痛くない。昼間のことを思い出す。マルコの腕は鳥のように青白く光っていた。


「マルコさん、昼間のあの炎って…」
「ああ、悪魔の実の能力だよい」
「悪魔…?」
「お前、それすら知らなかったのか」


驚いたようにそう言われ、私は首をすくめる。悪魔の実なんて言葉は知らない。
マルコの話を聞くと、どうやら不思議な能力を授かる不思議な果物だということが分かった。マルコはそれの能力者であり、不死鳥の炎を扱えるという。


「不死鳥……」
「他人の傷を治せる程万能じゃないけどな」


私はマルコの手を取ってじぃと見つめてみた。普通の人間の手と変わらないのに、あの時は確かに彼の手は青白く燃えていた。
まじまじと見ている私が余程おもしろかったのか、マルコは私を見て笑い出した。


「お前は本当に不思議だよい」
「マルコさんの方が不思議ですよ、不死鳥なんて」
「それより、気分は良くなったか?」


頭を撫でながらそう聞かれて、彼が私を気遣ってこうして他愛もない話をしてくれていたのだと気付く。マルコと話している最中は、周りの音も気にならず、リラックス出来ていた。私は頷いて答える。


「はい。…今は、音も気にならないし」
「音?」
「なんか、部屋の外から聞こえる音が気になって。…それで、寝れなくて」
「なるほどな」


会話が途切れ、部屋に沈黙が流れる。ちょうどその時、何処かの部屋で大きく扉が閉まる音が聞こえて、私の肩はビクッと震えた。
マルコがため息を吐いた。


「昼間、もっと早く助けに行ければよかったよい」
「え、そんな、私がもっと見つからないところにいればよかったんです」
「怖い思いをさせて悪かった」


小さい子供をあやすようにマルコは私を緩く抱きしめて、背中を撫でてくれた。物音を気にしてしまうのは、昼間のことが少なからずトラウマになってしまっている部分があるのだろう。マルコはそれを察してくれて、私を慰めてくれる。
抱きしめられて安心する反面、心臓が別の意味でドキドキと鳴りだす。だけど、マルコの腕の中は温かくて、外から聞こえる物音も気にならない為、私は少しだけワガママを言ってみた。


「マルコさん」
「なんだ?」
「今日、一緒に寝てくれませんか?」


マルコの胸元のシャツをきゅっと握りしめる。昼間横抱きにされた時も、今も、マルコの体温は私を安心させる。


「マルコさんが近くにいると、私安心出来るんです」
「…安心って、お前なぁ」


困ったようにそう言うマルコに、私はさすがに身の程知らずのわがままだったのかもしれないと反省をした。やっぱり良いです、と言おうとしたが、その前にマルコは呆れたように笑って言った。


「今日だけだよい」
「…いいんですか?」
「いいけど、お前、他の男にそんなこと言ったら安心して寝るどころじゃねぇからな」


頭を少し強めに撫でられて、私は目を瞑った。最後の言葉の意味は分からなくて、どういう意味かと聞いたが、マルコはため息を吐くだけで教えてくれなかった。



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