07


甲板の掃除を手伝っていると、突然船の後方から大きな爆発音がして大きく揺れた。びっくりして私は転んで尻もちをついてしまった。起き上がろうとしたところで、「敵襲だ!」という声が聞こえた。てき、しゅう?
途端、船中でクルー達がみんな大声で興奮したように叫びだした。何事かと見渡すと、この船の近くに見たことも無い船が接近して、そして銃声までも聞こえだした。てきしゅう、敵襲だ。私はようやく事態を理解し、そして武器を持ちだしたクルーを見て命の危険を感じた。ここにいてはまずい、巻き込まれる。

船上へ駆け出すクルーとは反対に私は急いで船の中へと逃げ込む。途中すれ違ったクルーから「危ないから中入って隠れてろ!」言われて、私は一目散に船の奥にある人があまり来ない倉庫部屋へと向かった。


倉庫部屋に隠れてどれくらい経っただろう。上ではまだ銃声やら金属のぶつかり合う音やらが聞こえる。
海賊とは、命の危険と隣り合わせなのだと今更理解する。いきなり襲ってきたあの船も、きっと別の海賊なのだろう。あんなに近くで銃声を聞いたのは初めてだと思う。未だに音が耳にこびりついて、心臓がバクバクと音を立てる。
それからしばらくして、ようやく上から聞こえる音が小さくなってきた。終わったのだろうか、そう少し気持ちが緩んできた時だ。倉庫部屋の扉のドアノブがガチャガチャと乱暴に回される音がして体がビクッと震える。扉には鍵をかけたので大丈夫だとは思うが…。私は不安に思いながらガタガタと揺れる扉を見つめていた。そして、揺れが止まり、私は中に入ろうとした誰かが諦めてくれたのだとほっと胸をなでおろした。
しかしそれは勘違いだった。ドガン!と大きな音とともに倉庫の扉が吹っ飛ばされて部屋に見知らぬ男が入ってきた。私は思わず息をのむ。この人は……多分、あの襲ってきた海賊船に乗ってきた人だ。


「…っち、鍵がかかってるから財宝置き場かと思ったのに、ただの物置だったのか。……ん?」


彼は部屋を見渡して、そして私を見つけてニヤリと笑って近づいてきた。私は逃げようとしたが、腰が抜けてしまい立ち上がれず、床に尻を付けたまま後ずさった。男はすぐに私の目の前にたどり着き、じろりと見下した。


「白ひげんとこのナースは良い女だらけって言うしな。…それにしては見すぼらしい恰好してるが、まあいい。財宝替わりにお前だけでも持って帰るか」


男はそう言って有無を言わさず私の腕をつかんで無理やり立たせて、引きずるようにして部屋を出ようとした。私は必死に抵抗して腕をつかんでいる手に噛みついた。まさか噛みつかれるとは思わなかったらしく、男はびっくりして声をあげ私の腕を一瞬手放した。
その隙に逃げようとしたが、刹那。頬に熱い衝撃が走り、身体が壁へと打ち付けられた。


「……っ!」
「いってぇな。何しやがる。やめた、殺してから帰ろう、手土産は無くなるが仕方ねぇ」


男は私に反抗されたことが気に食わなかったようで、私の頬を殴り飛ばしてきたのだ。殴られた左頬がズキズキと痛む。こんな痛みは体験したことがない。私、殺されてしまうのだろうか。恐怖でその場から動けず、近づいてくる男を見上げることしかできなかった。


しかし、男の手が私に到達する前に、その男は視界から消え去った。目の前から、いなくなったのだ。何が起こったのか…しかし次の瞬間には衝撃音。先程まで目の前にいた男が部屋の隅で壁にのめりこむように倒れていた。


「おい、大丈夫かよい」


声がして、ようやく気付く。マルコが、私を助けてくれたのだ。蹴り飛ばされた男は微動だにしていなかった。私は殴られた時の態勢のまま、マルコをぽかんと見ていた。
私の頬に気付いたらしく、マルコはそっと手を伸ばしてきた。マルコの手は、青白く燃えているように見えた。


「えっ、熱………く、ない?」
「傷を少しだけ癒せる。大人しくしてろ」


指先だけが青白く燃えているように見えたが、よく見ると、マルコが伸ばした右手全体が鳥の翼のように燃えていた。
ふと、自分がかつて空から落ちてきてマルコに助けられた時のことを思い出した。その時も、マルコの腕は翼のように見えた。


「マルコ、って、鳥だったの?」
「お前は本当に何も知らねぇんだなあ」


マルコは呆れたように笑っていつの間にか腫れの引いた頬をそっと撫でた。

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