04


朝になり日が昇り、マルコが部屋を出て行った。

私は部屋の隅に昨晩から置かれた簡易ベッドの上でうずくまる。その前の日に私が眠っていたのはどうやらマルコのベッドだったらしく、突然現れた見ず知らずの私のために彼はベッドを譲ってくれていたことをその時初めて知った。
同室で過ごすことが決まって、さすがにその後もベッドを奪い続けるわけにも行かないため、今は誰も使っていない古びたベッドがこの部屋に運ばれてきたのだった。
机の上にはマルコが食堂から持ってきてくれたご飯が置いてあったが、なんだか食べる気にならず一口も手をつけていなかった。
彼はどうやらこの海賊船の中でもかなり上の立ち位置らしく、色々とやることが多くあるらしい。暇なら適当に船を見とけと言われたが、一人で部屋の外に出る勇気は無く、一人ベッドの上でぼーっとする以外することが無かった。

マルコの部屋はとても簡素だった。戸棚に数冊本があり、手に取ってみたがどうやら医療に関する専門書のようで、難しくて面白いものではなさそうである。しかし他にすることもない私は、仕方無しにその本をパラパラとめくって読み始めた。


夕方になり、朝出て行ったきりのマルコがようやく部屋に戻ってきた。彼は部屋から出て行った時と同じ体勢でベッドにいる私をみて大層驚いていた。


「お前、まさかこの部屋から一歩も出てねぇのか?」
「トイレもここにあるし、外に出る用事もないですし……」


そう答えると、手をつけていない食事に気付いたらしく、飯は?と聞かれた。お腹が空かないこと、せっかく用意してもらったのに食べなかったことへの謝罪を口にすると、彼はため息をついた。


「腹が減らないのは動いてないからだろい」
「そうかもしれないです」
「船内でもまわってみたらどうだって、言わなかったか?」
「言ってましたけど…。でも、私マルコさん以外誰もわからないし、一人でまわるなんて……」


自分が誰かも分からない私が、何処だか分からない船で誰だか分からない人たちの中を歩く気にはならなかった。
彼はもう一度ため息をついて付いてこいと言って部屋を出た。私は躊躇いつつも、彼に続いて部屋を後にした。
ついたのは食堂だった。入ると、やはり他の船員からの視線を集めてしまい、私は俯いてマルコの背中に隠れるようにくっついた。そんな私にマルコは振り向いて、そして頭をぽんぽんと撫でて笑いかけた。


「そこ、座っとけよい。食事はおれが持ってくるから」
「でも…」
「すぐ戻る」


私はそう言われて仕方なしに一人でテーブルの隅に腰を下ろした。居心地悪く座っていると、マルコは言った通りすぐに食事を持って戻ってきてくれた。


「ほら、ちゃんと食えよ。お前、軽すぎだよい」
「……努力します」


ご飯は温かくて美味しかった。時折何人かがマルコに対して「そいつが例の…」「女が乗ってるって本当だったのか」などと私に関することを聞いていたが、マルコのおかげなのか、直接私に話しかけてくることはなく、またそれらの会話も全て私が気にするからと茶化さないように言ってくれたおかげで、食べ終わる頃には周りの視線も気にならない程度におさまっていた。


「これからは、飯はちゃんとここで食えよ」
「マルコさんが一緒なら、そうします」


そう返事をすると、少し驚いたように目を開いて、「まあ、そうだな」と言った。


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