03


「名前は…そうか、それすらも忘れたんだったか。じゃあ当然、何処から来たかもわからないというわけか」


大きな人に尋ねられて、私は首を一生懸命縦に振った。物理的にも、精神的にも威圧感がとてつもなくて、私は声を出すことすら出来なかった。
二人は私の処遇について話し合った。結果、怪しい物も持っていないし船員に危害を加える心配も少ないということで、このまま無理やり船を降ろすのは酷だろうとしばらくここにいても良いということになった。
確かに、見渡す限りの大海原。こんなところで一人降ろされたらたまったものではない。私はありがとうございます、と小さな声で感謝を伝えると、大きな人はまた不思議な笑い方をして私の頭を大きな手で撫でた。いきなりのことにびっくりして固まった私を見て、彼は更に笑っていた。


「まあそうビビるな。何かあればマルコに聞け。いいな、マルコ」
「ああ。…船内を案内するから、ついてこい」


マルコに続いて部屋を出る。そして私はこの船が海賊船であり、マルコも、親父と呼ばれた大きな人も、皆海賊であるということを初めて教えられた。


「か、海賊?」
「なんだ、海賊に会うのは初めてだったのかよい。随分と平和な街にいたんだな」
「そう…なのかな………」


海賊がこんなに身近に存在するなんて、ありえない話のような気がする。しかし、マルコの話を聞く限り、この海には多数の海賊が存在していることは確かなようで、私はこの違和感の原因がなんだかよくわからなかった。

船は、とても大きくて広かった。船員の数も多く、しかしそのほとんどが男性だった。時折ナース服を着た女性を見かけたが、極僅かだった。先程挨拶をした親父さん、どうやら船長らしい、の看病をしている人たちだということを聞いた。
女性を船に乗せるのはイレギュラーであり、だから周りから好奇の目でみられているようだった。

元の部屋に戻ってくる頃には、船内があまりにも広かったことと視線にさらされ続けたこともあり、大分ぐったりと疲れていた。


「で、しばらくはお前、おれと同室だよい」
「えっ?」
「仕方ねえだろ。女一人だと、鍵なんかついてても何の役にも立たないぞ」

てっきり部屋を与えてもらえるのかと思っていた。部屋はどうするか、みたいな話を先程親父さんとマルコがしていたからだ。まさか、こういう結果になるとは思わなった。
しかし、マルコの言う通り、この船には男ばかりが乗っていて、自分にそう言う価値があるかどうかは置いておくとしても、一人で夜眠るのは、なんだか危険に思えた。


「おれも信用できないってなら、意味ないけどな」


そう言って彼は少し笑った。私は首を振る。なんとなく、この人といると、安心感があるのだ。


「信用してます。……助けてもらいましたし」
「そうか。まあおれも部屋を空けることの方が多いし、ここにいれば他の奴らから余計なちょっかい出されることもねぇから、安心しろい」


彼もまた、私の頭をぽんぽんと撫でて、そしてゆっくりしてろと言いおいて、部屋を出て行った。


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