未来への誓いを捧げて
「ティファ、大丈夫。私も一緒に、戦うから」
「……うん、ありがとう、ナマエ」
震えるティファの手にそっと自分の手を重ねて、深いルビー色の瞳を見つめる。背後から聞こえたクラウドの先を促す言葉に頷いて、支柱へ向かって私たちは駆け出した。行く先々で、不安そうに支柱を見上げるスラムの人々が目に入った。怖い、何が起きてるの、そんな声があちこちから漏れ聞こえて、焦燥感はどんどん大きくなるばかり。プレートが落ちてしまえば、ここにいる人々は一溜まりもない。コンクリートの塊に押しつぶされて、造形すら保てない程に文字通りぺしゃんこだろう。アバランチとは無関係の、何の罪も無い人々なのに。神羅がアバランチを忌み嫌い、壊滅させたいという心情まではまだ理解ができる。それでも、果たして本当にこんなやり方しかなかったのだろうかと、その行動には全くもって理解ができない。いや、こうなってしまえばもはや理解する気もない。わかってはいるんだ、これまで私がしてきた行為も何の遜色も無く、今まさに神羅がしようとしていることと同じだと。だからこそ止めたい。クラウドたちのおかげで、人間の心を捨てることがいかに愚かなことなのか、もうわかってしまったから。
「───ウェッジ!」
支柱の根元、特に人々が集まる広場へと足を踏み入れた瞬間、支柱の真ん中あたりで大きな爆発音と共に火柱が上がり、ティファが驚愕したように叫んだ。弾かれたように頭上を見上げて、見えたものは宙に投げ出された一人の影。彼は咄嗟にワイヤーガンを支柱の鉄骨に向けて放ったけれど、伸びたワイヤーは重さに耐え切れなかったのか火花を立ててプツリと断線してしまう。ドサリと地面に叩き付けられる音が響いて、クラウドは慌てて彼の元へ駆け出した。
「ウェッジ、大丈夫か!」
「クラウドさん……」
幸いワイヤーのおかげで、落下の勢いが殺せたのかウェッジと呼ばれた彼は致命傷を免れたようだ。それでも無傷というわけにはいかなかったようだけれど。打ち付けた半身を庇うように起き上がるのを、クラウドが背中に差し込んだ手で助け起こす。
「行かなきゃ…、上でバレットたちが…」
「無理だ」
「でも、」
「ウェッジを頼む。俺は上へ行く」
それでも尚立ち上がろうともがくウェッジをティファとエアリスが宥める。その怪我ではこれ以上の戦闘が絶望的なことは、きっと彼自身もわかっていた。悔しそうに歪められた表情が何よりそれを物語っていたから。ティファとエアリスに支えられるウェッジの正面にそっとしゃがみ込んで、真っ直ぐ目を合わせる。
「ナマエです。訳あってクラウドたちに同行させてもらってます。…必ず、私が止めます。だから、どうか気を落とさないで」
「…ナマエさん、…わかったッス。ビックスたちを、助けてほしいッス」
「約束します」
傷だらけの顔で、ウェッジは微かに瞳を潤ませて頭を下げた。大切にしてきたものが壊されていく光景を目の前に、指を咥えて見ているだけしかできない、自らの手で守ることができない悔しさは、そういった戦いの日々に身を置いている私が一番理解しているつもりだった。立場は全く違っても、それでもわかる。守りたいものがあるって、そういうことだ。
「ティファ、エアリス、後はお願い」
「うん。ナマエ、気をつけてね」
「クラウドのこと、お願い」
ふたりに頷いて、立ち上がる。背後に立つクラウドに視線を合わせると、少し心配そうに、それでも静かに頷いて支柱入口へと顔を向けた。
───守りたいものがある。泣きたくなるくらいに幸せな時間をくれた、この人を、この人が大切にしているものを、守りたい。それから、こんな私を拾って、育てて、強く生きるということを教えてくれた主任やタークスの仲間を、守りたい。これから私は、与えられた命令に背くという大罪を犯す。この方法が正しいかどうかなんてわからない。でも神羅が、タークスが、これ以上取り返しの付かない罪を重ねる前に止めることが、本当の意味で守ることなんだと信じたい。
「ナマエ、行けるか」
「……うん、行こう、クラウド」
無理はするな。俺があんたを必ず守る。
愛しい人からの、不器用で、最大限の愛情が込められた言葉。その言葉だけで何があっても大丈夫だと思えてしまうのは、惚れた弱味からなのか。幾ばくか緊張が解れて、口元が無意識に綻んだ。心の中でクラウドに返した言葉。それは、誓いだった。
私がいなくなっても貴方が心から笑えるように、私が貴方の未来を守るから───。