01
"マロンズハウス"
そう書かれた看板を見上げて、今日も一日が始まる。院長先生が付けたその名前は、栗の実のように子供たちが寄り添って育っていけるようにという素敵な由来があって。厳しいけれどいつも子供たちのことを考えている院長先生らしいな、なんて見るたびに微笑ましくなる。

私が住んでいるこの灰色の街はいつもと変わらないけれど、いつも変わる。昨日まではなかった建物が出来たり、昨日まではあった建物が無くなったり。それがこのエッジにすむ人たちの活力の象徴なんだと思うと元気付けられる。私はこの灰色の街がすごく好きなんだ。

「せんせー!」
「うん?どうしたの?」
「院長先生が呼んでる!」
「えっ、ほんとう?ありがとう、ジルくん!」

深いブラウンの髪を撫でて、ジルくんにお礼を言って急いでマロンズハウスの中へ駆け込む。院長先生は…、あ、いた。窓辺の鉢植えに水やり中の後ろ姿に近付いて声をかける。

「院長先生、お待たせしました。どうかしました?」
「あぁ、ナマエ。それがね、今度の収穫祭で使う予定だった備品の発注をしたんだけど、建設中の道路が陥没で業者がこっちに来れなくなったのよ」
「えぇっ!それじゃ間に合わなくなっちゃうんじゃ…」

あと10日ちょっとでマロンズハウス恒例の収穫祭だっていうのに。みんなが楽しみにしていたから、予定通り開催できないときっと悲しませてしまう。

「そうなの。だから例の運び屋さんに連絡してみてるんだけど、電話も繋がらないし八方塞がりよ…」
「例の運び屋さん、ですか?」
「ストライフ・デリバリーサービス、だったかしら。どこへでも何でも運んでくれるって噂よ」
「へぇ、初めて聞きました。でも繋がらないんじゃ仕方ないですよね…」

うーん、とふたり揃って頭を悩ませる。いつも備品を発注している業者はジュノンから来るから、さすがに戦闘なんて出来ない私が取りに行くわけにもいかないし。

「ナマエ先生、クラウドに会いたいの?」
「…え?あ、マリンちゃん、デンゼルくん!」

突然後ろからかけられた声に振り向いたら、そこに居たのは近所に住むマリンちゃんとデンゼルくん。ここの孤児院に友達がいるから、ふたりはこうしてたまに遊びに来てくれる。

「えっと、クラウドさんって?」
「デリバリーサービスのクラウドだよ。俺たち一緒に住んでるんだ」
「そうなの!?」
「うん。いっつも色んなとこを走り回ってるからあまり帰ってこないけど、今日は丁度帰ってきてるよ!」

ふたりの言葉に院長先生と顔を見合わせて頷き合う。まさか探していた人がこんなに近くにいたなんて、ラッキー以外の何でもない。

「ね、クラウドさんに運んでもらいたいものがあるんだけど、会えるかなぁ?」
「収穫祭の荷物でしょ?無いと困るもんね」
「あ、聞こえてたんだね…うん。どうしても必要なの」
「大丈夫、俺たちも一緒に行くから」

そう言ったデンゼルくんに、どんどん大人びて来たなぁ、なんて微笑ましくなる。ふたりに目線を合わせるように少しかがんで、軽く頭を下げる。

「ありがとう、ふたりとも。それじゃあ、連れていってくれる?」
「うん、こっちだよ!」
「院長先生、少しだけ離れますね。ちゃんと依頼してきます!」
「行ってらっしゃい、気を付けるのよ」

にっこり微笑んでくれた院長先生にぺこりと頭を下げて、マリンちゃんに手を引かれながら孤児院を出る。あとはクラウドさんに依頼を受けてもらえればいいんだけど。孤児院のみんなのために、もしも断られても頑張って交渉しないと、なんて意気込みながら歩く。
それから10分くらい歩いた先でマリンちゃんとデンゼルくんが足を止めた。看板に書かれた"セブンスヘブン"という文字が目に付いて、お店になってるんだと驚いた。

「ナマエ先生、入って入って!」
「うん、お邪魔します」

マリンちゃんが扉を開けてくれて、促されるままに中に足を踏み入れる。わ、飲食店なんだ。数席のテーブルと、カウンター。カウンターの奥にはお酒の瓶が所狭しと並べられていて、バーのような雰囲気もある。でも何だか落ち着くところだなぁ、なんて店内を見渡していたら、奥から綺麗な女の人が出てきた。

「いらっしゃいませ、…あれ?」
「あっ、すみません、お邪魔してます」
「ティファ!ナマエ先生だよ、マロンズハウスの!」
「あ、それは大変!マリンやデンゼルからいつもお話聞いてます。この子たちがお世話になっているみたいで、ごめんなさい」
「いえいえ!逆にマリンちゃんとデンゼルくんにはいつも助けられてますから」

深々と頭を下げられて、顔を上げてくださいと慌てて伝える。本当にお礼を言われるようなことなんて、してあげられていないから。

「ティファ、クラウドは?」
「クラウドなら上にいると思うけど、どうして?」
「俺、ちょっと行ってくる!行こう、マリン」
「うん!」

ふたりがそう言って奥へ駆けていくのを怪訝な顔で見たティファさんが、カウンターのひと席へ案内してくれて、お礼を言って座らせてもらう。

「クラウドに用事があったんですか?」
「はい。実は孤児院で使いたい備品の運送を、クラウドさんにお願いしたくてお伺いしたんです」
「あ、もしかして…また電話、出ませんでした?」
「…みたいです」
「もう!そういうとこは相変わらずなんだから…!」

眉を寄せて怒ったティファさんに苦笑を浮かべていたら、奥から階段を降りてくる音が聞こえてきた。
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