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「ナマエ、大丈夫か」

身体を軽く揺さぶられる感覚に目を開ける。目の前にいたクラウドに、大丈夫と頷いて起き上がって辺りを見渡す。

「…上に、戻された……?」
「みたいだな」

来た時より幾分か弱まったように見える炎と、瓦礫の山。何故か私たちはスラムまで押し流されたようだ。近くに倒れていたバレットとティファも起き上がって、同じように辺りを見渡している。
ふと少し離れたところに倒れるもうひとりを見つけて、私は弾かれたように駆け寄った。

「…っウェッジ!」

横たわるウェッジの首元に手を当て、ほっと胸をなで下ろした。傷だらけだけれど、ちゃんと生きてる。駆け寄ってきたバレットたちに頷いてみせると、みんなも安堵の表情を浮かべた。

「安全な場所に移そう。他のことは、そのあと」
「おお、そうだな…」

ティファの言葉に返事をしたバレットが、ウェッジの身体を抱え上げる。ティファが抱きかかえたウェッジの猫に近付いて、小さな頭を撫でた。

「ありがとう、教えてくれて」
「…よくやった」

珍しく素直な物言いをしたクラウドに答えるように、その子はティファの腕の中で小さく鳴いた。
少し歩いた先で、突然前を歩いていたバレットが足を止めて振り返った。

「ウェッジのこと、任せていいか」
「え?」
「俺はここで仲間を待つ。ウェッジが生きてたんだ、可能性はゼロじゃない」
「……」

その言葉に、私やクラウド、ティファは押し黙った。嫌な空気が流れる。
バレットにもちゃんと言うべきなんだろう。でも、どう伝えたら…。そう思っていた矢先に、静寂を破って口を開いたのはクラウドだった。

「俺は支柱の上で、ビックスとジェシーと話した。だから…ふたりの状況は知っている。戻って来る可能性は………」
「……でもよ」

最後まで言えずに言葉をとめて視線を逸らしたクラウドに、バレットは震えたように声を振り絞った。バレットにとって、ジェシーもビックスも、言ってしまえば家族のような存在なんだ。バレットの心情を思うと、胸が苦しさでいっぱいになる。

「──星に、帰ったんだよ」

小さく呟かれたティファの一言に、私は頷いて、空を見上げた。バレットがウェッジを抱えてないほうの拳を握りしめるのが視界の端に見える。

「帰る場所、間違えやがって……。立ち止まってたら、あいつらに笑われちまうな」
「うん…。私たちは、進もう」
「…ったく、重てえなぁ──」

バレットが震える声で呟いた一言は、いつもとは違って静まり返るスラムの夜に吸い込まれていった──。


「すまねぇ。本当にすまねぇ」

七番街を後にして、傷ついたウェッジを匿ってもらえる安全な場所は、エアリスの家しか思い当たらなかった。そうしてもう三度目になる傍迷惑な私たちを迎え入れてくれたエルミナさんに向かって、バレットは深く頭を下げた。

「ほかにあてがなくてよぉ…」
「怪我人を追い出すような薄情はできないよ」

本当に、エルミナさんには頭が上がらない。いくらエアリスの知り合いだからと言って、ここまで迷惑をかけても受け入れてくれる、厳しいようで優しすぎる人。

「エルミナ。やはりエアリスを取り戻すべきだ」
「はぁ…。またその話かい」
「神羅の地下施設で人体実験のあとを見つけた。俺のほうが神羅という組織を知っている。話を聞いただけで、エアリスを解放するとは思えない」

クラウドが続ける言葉に、エルミナさんは眉を顰めて考え込んでいる。クラウドとしても、別にエルミナさんの不安を煽りたいわけでもなんでもなくて。ただ、神羅という組織が非道な行いを裏でしているのは私もよく知っているから、やっぱりエアリスを迎えに行くべきだと思う。

「この世界でたったひとりの古代種となれば、科学部門が黙っていないはずだ。科学部門には宝条という人を人とも思わない──」
「やめておくれ!」

大きな声でクラウドの言葉をエルミナさんが遮った。椅子に項垂れるように腰掛けるエルミナさんに、それ以上何かを言うべきではないとクラウドも黙った。

「……少し、考えさせてくれないかい。あんたたちも疲れただろ。今日はもう休んだらいい」
「…はい」

顔色があまり優れないエルミナさんに、私は一言そう答えて、言葉に甘えて今日は泊まらせてもらうことにした。
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