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「…っジェシー!」

それからまた少し上がったところで、瓦礫の下敷きになったジェシーを見つけて、私たちは慌てて駆け寄った。何故かジェシーの周囲を取り囲むように浮かぶ黒い影をダガーで切り裂く。

「ジェシー…?」

ティファとジェシーの元にしゃがみ込んで、クラウドがジェシーに覆い被さる瓦礫をすぐに退けた。その身体は傷だらけで、顔色も良くない。おそらく一刻も早く治療を受けさせないと、そう長くは持たないように見えて、自分の眉間にきつく皺が寄るのがわかる。この傷じゃ回復魔法ももう意味は無い。

「やだ………ティファもナマエも、変な顔しちゃって…」

クラウドに抱き起こされながらジェシーが発した声は、いつものジェシーの面影がない弱々しいもので。あまりにも痛々しい姿に、目を逸らしてしまいたくなる。

「本当はね、みんなでまた…ママの料理、食べられるって…どっかで、信じてたんだよね…」
「食べられるよ、いつでも食べられるから…ジェシー、一緒に帰ろう?」
「ナマエ……そう、だね…。でも、わたし……」

ジェシーの手を両手で強く握って、声を掛ける。なんでそんな最後みたいなこと言うの。涙でジェシーの顔がぼやける。それでも涙が零れ落ちないように、必死で堪えて、下手くそな笑顔を貼り付ける。私の隣ではティファが俯いて、コンクリートに涙が染みを作っていた。

「もう、泣かないでよ……ふたりとも…。そろそろ、行ってくれない…?っ、見られてると、……恥ずかしくて───」
「ジェシー…」

クラウドの手に、拳を当てたジェシーはそう言って、その手から力が抜けた。その瞬間に、せっかく堪えていた涙が頬を伝った。ティファから小さく嗚咽が聞こえてきて、蹲って震えるその背中にそっと触れると、ティファが私の胸に飛び込んできた。私も応えるように背中に腕を回して、ぎゅっと抱き締める。私たちがするべきことは、まだ終わりじゃない。それでもほんの少しだけ、立ち止まる時間が傷付いた私たちには必要だったのかもしれない。

「ティファ…必ず止めて、戻ってこようね」
「…っうん」

身体を離して、お互いに涙を拭いて強く頷き合う。大丈夫、まだ頑張れる。そう自分に言い聞かせて立ち上がった。どこか心配そうに私たちを見ていたクラウドも頷いて、私たちはバレットが待つ最上階へと向かった。

「バレット!」
「お前ら!気をつけろ!」

上空を旋回していたヘリに向かってガトリングを乱射していたバレットの元へ、ヘリからの銃弾を上手く掻い潜りながら辿り着く。

「よく持ちこたえた」
「ったりめぇよ!俺は今、主役だからなあ!」
「バレット、多分もうすぐタークスが来る」
「なに?」

そう口に出した途端に、それまで旋回していた複数のヘリが撤退を始め、入れ替わりで近付いてくる一機のヘリが視界に入った。噂をすればなんとやら。溜め息を吐いて、隠れていた物陰から出る。プレートを落とさせないためには戦うしかないだろうし、それにタークスには聞きたいことがある。

「お仕事だぞ、と」

ホバリングを続けていたヘリから降りてきたレノが、クラウド目掛けて警棒を振り下ろした。それをバスターソードで受け流したクラウドがレノへ一閃を叩き込もうとした瞬間、ひらりとそれを躱したレノが支柱の中央に向かって走り出した。まさか、と思って左足で地面を蹴ったけれど、ヘリからの射撃で足を止められてしまった。

「レノ!待って!」
「あんたら、ケンカ売る相手を間違えたぞ、と。───はい、おしまい。…ッ邪魔するなよっ、と!」

モニターを何やら操作していたレノがそう言って、おそらく起動ボタンを押そうとした瞬間にクラウドの剣がそれを阻止した。任務遂行が妨害されたせいか、こめかみに青筋を立てたレノが警棒を構える。
私たちもそれぞれに武器を構えて、プレートの命運をかけた死闘が始まった──。
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