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残った神羅兵を峰打ちで気絶させながらやっと中腹まで来たあたりで、座り込む見覚えのある人物にどくんと心臓が嫌な音を立てた。

「──っ!ビックス!」
「…ナマエか…、っぐ」
「ビックス、しっかりして!」

傷だらけで、腹部からはかなりの出血がある。傍らにしゃがみ込んで、自分のTシャツの裾をダガーで切って、それを患部にぐっと押し当てる。痛みで呻き声をあげるビックスに、少し我慢してと声を掛ける。

「ナマエ…お前、ひとりか…?」
「クラウドもティファも下にいる。安心して。これ以上、誰も傷付けさせない」
「…だめだ、ひとりで行くな、っう…!」
「ナマエをひとりで行かせるつもりはない」

突然背後から聞こえてきた声に振り向く。それはやっぱりクラウドで、私と同じようにビックスの元にしゃがみ込んだ。

「クラウド…」
「ようやく来たか、クラウド…。なぁ、ウェッジは…?」
「治療中だ、安心しろ」
「…よかった、腹がクッションになった──」

そこまで言って、ビックスが激しく咳き込んだため、慌てて空いている右手で背中をさする。

「しゃべるな」
「…っ、上が苦戦中だ。クラウド、ナマエ…頼む、行ってやってくれ」
「でも、ビックス…!この怪我じゃ…」
「俺は大丈夫だ、ここで戦う。…なぁクラウド」
「…なんだ」
「ナマエは、七番街の人気者なんだ…怪我させちまったら、あとで俺が周りに、ドヤされる……っぐ、…こいつを、守ってやってくれ…」
「…ああ、わかってる」

荒く苦しそうな呼吸でそう言ったビックスに、思わず俯く。ビックスをこのまま放っておくのは胸が張り裂けそうだけど、上に行かないわけにはいかない。ぎゅ、と拳を握り締めて、顔を上げる。上手く笑えているかわからないけれど、ビックスを安心させるために笑顔で頷く。

「ビックス、あとは任せて」
「ここで待ってろ」
「…おう。じゃあな、お前ら。…星の命、まかせた──」

その言葉を最後に、ビックスは力が抜けたように目を閉じた。大丈夫、任せて、ビックス。私たちが神羅を必ず止めて、迎えに来るから。

「…ナマエ、急ぐぞ」
「うん、行こう…クラウド」

お互いに頷きあって、更に上を目指して走り出す。それから数階登ったところで、突然当てられたライトに眩しさで目を閉じる。同時に聞こえてきたのは、耳に残る声。

「やーっぱり来たな、ナマエ」
「…レノ、ルード」

薄く開けた視界に見えたのは、ヘリを操縦するレノと、その隣にルードの姿。いるとは思っていたけど、やっぱり実際に姿を見ると神羅がパフォーマンスではなく本気なんだと思い知る。

「ん?おまえは…あー、ハイハイ」
「レノ、わかっているとは思うが、"レプリカ"には…」
「あん?わぁーってるよ。…ナマエ、当たんじゃねぇぞ、と!」

そうマイクを通してレノが言うや否や、ヘリの下部が開いて出てきた銃口に、目を見開く。まさか、ここで撃つつもり?

「ナマエ!走るぞ!」
「う、うん!」

クラウドが自然に私の右手を取って走り出す。すぐに向けられた銃口から弾が乱射され、足元すれすれを掠めていく銃弾にヒヤヒヤしながら階段を全力で駆け上がる。ふと階下から別の足音が聞こえてきて、物陰に身を隠しながらちらりと下を見る。

「ティファ…!?」

階段を登ってきたのは紛れもなくティファで、ただそれをタークスも見逃すわけが無く。今度は銃口をティファに向けたところで、何故かぐらりとヘリの機体が傾いた。放った弾丸はティファの目の前の階段に当たって、足場が下に落ちていく。咄嗟に飛んだティファを、物陰から飛び出したクラウドが抱き寄せて、なんとか落下は免れた。不可抗力とはいえ、ぴったりとくっついたふたりに胸の奥がずきずきと痛む。バカだな、私。こんな時にそんな感情を抱いている自分に自己嫌悪して、頭を振った。

「ふたりとも、おまたせ」
「ティファ、無茶だ!」
「お互い様。このまま走ろう!」

モヤモヤとした嫌な感情を無理矢理振り払って、私はティファに頷いた。自覚したばかりの、淡い恋心。だから恋愛とかそういうのは嫌なんだ。こういう大事な時に、いつも邪魔になる。やっぱりこんな気持ち捨てよう。そして忘れよう。そう心に決めながら、上を目指してひたすらに走る。
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